宇宙船の限られたスペース、と普通は語られることが多いが、一つの恒星系が宇宙船として機能するこの太陽系《マンズーマ・シャムセイヤ》に限ってはそれは当てはまらない。ただ単に、使用者の都合によって部屋のスペースは決まる。
なので、白衣を羽織った美人さんモードのネコさんの研究室は館にあったものと変わらない。
「はあ?相手の居場所を特定するためだけに惑星の半球を水びだしにする!え?掘り起こすスコップ替わりに、そこで流星群を落とすの!?
うーん、ますます脳筋な上に魔導の力が冗談みたいに増大しているわね」
紅茶を一口飲むとネコさんは、溜息をつく。
「誰か来たようね」
「ネコさん、ちょっとお邪魔するよ」
「竜さんなら、いつでも歓迎よ」
しかめた表情を猫なで声で隠しながら、来客を向かい入れる。
「丁度良かったわ、今惑星探査に行った下僕一号の所業を再確認していたところなの。よろしかったら意見を伺いたいわ?」
「ネコさんの頼みなら・・・・・・ 俺に出来ることなら、いいよ」
「じゃあね、味覚って何かしら?」
「ああん?舌で味わって、料理の良し悪しを感じることかな?まあ、小難しい理屈を付ければ自分、身体に取って良い物、必要な物は美味く感じる。逆に害になる物は、危険サインとして不味い若しくは、吐き気を催すってとこかな」
「そうね、概ね合っているわね。この辺りの解釈は、竜さんの世界での二一世紀時点での主要な理論からの説明だから、若干間違っているかもしれないけどその辺は我慢して聞いてね」
伊達眼鏡をくいっと上げてから、ネコさんが講義してくれた。
この惑星の地下百キロメートルに位置で巨大なパイプが一周しているのよ。つまりそれが、加速装置で必要な特殊な陽子、通常はプラス電荷のアップクォーク二つにマイナス電荷のダウンクォークが一つなんだけど、反陽子(マイナス電荷の反アップクォーク二つとプラス電荷の反ダウンクォーク一つ)を作り出して・・・・・・ 以下略の、反中性子、陽電子を作って合成して反物質をターゲット《食料》にぶつけているのよ。その時に発生するエネルギーのわずかな特性の違いを味覚として認識しているのね。
まあ、莫大なエネルギーが必要だけど物質と反物質の衝突による対消滅で発生する莫大なエネルギーでプラス収支になる訳ね。
と言っても、消費エネルギーに対して五パーセント位しかプラスになっていないんだけどね。惑星丸ごと使えるメリットは大きいようね・・・・・・
遠い目で、ネコさんがこの惑星生命体のスイーツ摂取における経済的収支を解説してくれた。
「ふう、金持ちの遊び程度の儲けか。道楽に付き合ってやればこっちの儲けは大きそうだな。ふふ・・・・・・」
「そうね、いろいろな反応から推測すると。化学調味料、失礼。最近は、うま味調味料というのかしら。これを量産して売りつけるのが、簡単で利益率が上げられそうね。偶に目先を変えて季節のスイーツとかを混ぜれば、なお万全でしょうね」
「なるほど、ならば。ハナ王国のナルシュにサトウキビの増産を要請するか。たしか、うま味調味料の原料は伝統的にサトウキビの絞りカスだったはずだ」
「ふふ、活かす殺さずの関係とは竜さんも悪ですねぇ」
「ネコさんほどじゃ、ないよ」
俺とネコさんは見つめ合うと、あっははと大笑いした。まあ、何にしろ今回も大商いが出来て喜ばしい限りだ。下僕一号にもいい、ガス抜きをさせてやれたし・・・・・・