『ふふっ、悪を気取る輩か。
天界から来たくせに、人に約束を守ると信じさせる力も無いくせに・・・・・・』
崩れ落ちた壁の欠片を払いながら不敵にホムンクルスを睨みつける神父。
「腐り切った世界から渡って来た人の子には、慈悲深い神の御心も理解できぬのは道理なのさ。
だから、そんな奴にも解り易い悪の論理を見せつけたのに・・・・・・
まあ、いいさ。伝説のホムンクルスを破るのは天界の使い、このザキエル様だ!」
神父服が粉々に破け光輝く渦の中から、高貴な翼を持つ天界の使者ザキエルが現界した。人の姿をしていた頃からは想像もつかないほどの強大な力がザキエルから溢れかえっていた。
『ふん、たかが天界の使い走りが正体を現したとしても大したことないわね』
『ええ?ご主人様ぁ、あれは昔のザキエルと違いますよ。何かヤバい奴っていうのか、昔のあいつが猫を被っていたのかも』
『ネコ? 嫌な響きね ・・・・・・』
『なんか修羅場?それでは、女たちと避難しますよ。た、退却ー!』
「あ、あれー!」
セーレは、八人の修道女をでっぷりとした腹の上に乗せると光の速さで隣の大陸まで逃げていった。
数百の光の暴力が、ホムンクルスたちに襲い掛かる。アンドロマリウスは危なっかしく避けていたが、キールとの闘いで失った右腕によるバランスの狂いと失血のダメージが祟ったのかよろめいた所を左足に一発喰らってしまった。
『きゃあ』
ホムンクルスは、流石の体術で紙一重で攻撃を躱しながら嘲笑う。
『まあ、少しはやるようね。アンに天使の知り合いがいるとか知らなかったけど、所詮私の行くてを阻む以上は排除するのみ。
でも、怪我人だからと言ってこんなショボい攻撃を受けるとか修行のやり直しが必要なようね、アン』
『ええ? 鬼畜ですぅ。ご主人様』
首をかしげる、天使ザキエルは可笑しそうにつぶやく。
『ふーん、様子がおかしいと思っていたら記憶が一部無いようですね。永く封印されていた後遺症ですかね。
まあ、昔可愛がって貰っていた黒歴史が無効ということならかえって殺《や》り易いですね。』
(神の力をお借りしてでも、やり抜くまで・・・・・・)
「御心のままにお借りしますよ、神の雷《サンダー》!」
室内だと言うのに、天に黒雲が現れ轟雷が無数にホムンクルスに殺到する。
『ちっ。流石に使いパシリでも、天界から送られる無尽蔵の魔力を使われたらヤバいわね・・・・・・』
「さあ、さあ。そんな逃げ回ってないで、一発当たって砕けてくださいよ。早く楽におなりなさい。
御心のままにお借りしますよ、神の炎《ファイヤ》!」
蒼炎の炎がホムンクルスを焼き滅ぼすかのように襲い掛かる。ホムンクルスの魔導の力が周囲を守る不可視の壁作る。その結果、礼拝堂をまるまる飲み込むよりもはるかに高い十メートルもの蒼炎の壁がホムンクルスとアンドロマリウスの周囲を取り囲み逃げ場を塞ぐ檻となった。
『あ、熱いですご主人様!』
『・・・・・・』
「さあ、そろそろ終焉ですかね。言い残すことは有りますか?」
絶対の勝利を確信した勝者の余裕で天使ザキエルが問う。