「ほう、商人に金を貸す代わりに株式を受け取ると、売り上げ利益の幾ばくかが得られると。それに、数多く株式を集めれば商人の方針に口が出せるとな。この世界には無い、商いの取り決めがあるようで興味深い」
「ええ、発行株式の過半数を握れば会社、まあ大商人の店に当たるのかしらの実権を握ることが出来るわ。それは、実際に株式を持っていなくてもその持ち主である株主を手懐けて委任状を貰えば同様の事ができるわ」
食後のお茶を飲みながら俺たちは、領主であるジョージさんに俺たちの世界での経済戦争についてレクチャーしていた。当然実務担当で汚れ役のネコさんはこれらの初歩的知識は既に身に着けているので黙って、スカーレットのプレゼンを皮肉気に眺めている。
いくつかの図表やグラフを駆使しながらスカーレットは説明《プレゼン》を進めていく。
「上辺だけの情報でなく、その会社が新開発した技術の情報を入手するには産業スパイとして情報を盗むか、金銭取引で情報を買うか、企業買収によって会社ごと情報を手に入れるかの三つの手法があるわ。
ただ、二番目の金で買うのは高くつく欠点があるわね」
「それは、どういう意味だね?」
「情報に価値があれば、より高く売りつけるのが商売人よ。例え、それまで価値に気付いていなかったとしても。だから、それ位なら企業買収をお勧めするわ」
「ふむ、納得できる話ではあるな」
ジョージさんは、しばし目を瞑ると同意した。
「第一の産業スパイには、リスクが伴うわ。でも、今日体験したこのホムンクルスの身体を使えばリスクは回避できるわ。ぜひ、私たちの世界にこの身体を送って欲しいものだわ」
「そのあたりは、どうなのかな?ネコさん、仮想通貨のトレードで疑似的にホムンクルスの身体をトレードできれば、スカーレットに届けることも可能な気がするけど」
「竜さんには以前も話したとおり、その身体はもって二十四時間しか存在を維持出来ないわ」
「二十四時間か、結構使いづらいかもな。あっ、ということはスカーレットの今使っている身体はあと数時間の定めか?」
「そうね、正確には三時間3分ね。だからもっと有意義に使った方がいいわよ、あなたもこんなネットでも調べられるようなことを話していないでね」
「くっ、意地悪な人ね。領主様、失礼してもよろしいかしら?」
「ああ、構わんよ。今日は貴重な知識が得られて楽しかったよ。今宵のお礼に、こんなのはどうかな」
ぱちっ。ジョージさんが指を鳴らすと俺とスカーレットは食堂からホールに移動していた。ホールの片隅には様々な楽器を奏でる楽団が甘い調べを漂わせていた。もちろん、『劇団魔族』音楽担当の方々だ。
まあ、ここまでお膳立てされたら乗るしかないか。
「スカーレット、一曲お相手願おうか」
「ふふ、喜んで」
豪華な晩餐の後は生演奏でダンス、なかなか良いエスコート振りかな?
やがて踊り疲れた二人は、俺の部屋で一つになった。
ふと、寝苦しさに目を覚ますと息絶えたスカーレットであった肉塊を咀嚼しているシャム猫と眼があった。
「ふふ、リサイクルは重要よ、竜さん」
「ああ、それは重要だな」