あ、ああーん。
頭の中で白い輝きが、視界を覆い全てが白色に包まれていく。一瞬前まであれほど激しく強く聞こえていた彼の鼓動が遠く微かにしか聞こえない。
満ち足りた心が突然、漆黒の闇に飲み込まれたような。今はもう、彼の鼓動は聞こえない。
「う、うーん。ここは何処?ああ、私の部屋か。では、あの楽しい時間は、夢とは違うが素敵な時間はもう終わってしまったのね」
少しの間、ぼんやりと楽しかった異世界の体験を思い起こして、街の散策、森での魔物狩り、晩餐会、ダンス、その後一夜を彼と共にして。
そう、私は帰って来たのね。
気だるげに私は横たわっていたベッドから滑り降りる。床に落ちていたスマートフォンを拾い上げると、彼を呼び出していた。
「ああ、スカーレットか、無事にそっちに戻ったようだな。特に問題は起こってないと思うが大丈夫か?」
「竜、私は大丈夫よ。それより、彼女はどうなったの?彼女と話をさせて!」
「すまないが、それはできない。すでに、あの娘の時間は終わってしまったんだ」
「え?、じゃあ、もういないのね、もう一人の私は?」
「ああ、残念だがそのとおりだ」
その時、メールの着信音がして無意識に私はメールを開いてしまった。
「あ、ちょっとメールが来た。待ってて」
「え?これは、ど、どういうことなの」
ベッドから転がり落ちた裸の女性がメール添付の動画の中にいた。目は開いているが既に意識は無さそうだ。いや、意識が無いことは私が知っている。私がここにこうしていることがその証拠だから。
裸の女性に、薄茶色の獣が音も無く近寄りじゃれ付く様に指を噛む。咀嚼音が場違いに大きく響く。
すぐに、横たわる女性の手足は薄茶色の獣に食い尽くされてしまった。今は腹を破って内臓を旨そうに喰らっている。
最後に頭を咀嚼している獣がアップになる。獣は私そっくりの顔をした誰かを綺麗に食べ尽くした。
「竜、これはどういうことなの?彼女は、なぜ?」
「ああ?スカーレット、どうした?気分でも悪いのか」
彼、竜が心配そうに問いかける声が聞こえた。それは、動画の中で聞いた最後の声と同じだった。
「ふふ、リサイクルは重要よ、竜さん」
「ああ、それは重要だな」
私は、何もかもが信じられない気がして通話を切った。
私は泣きながら、ベッドに倒れ込んだ。
短い旅行を通じて感じた明るくて楽しい異世界の印象が、一転して暗闇が覆う世界に転じてしまった。
私は、これからも彼のパートナーとしてやっていけるのか。私は誰なの?