江戸の華と言えば喧嘩と火事だったらしい。新興の巨大都市江戸は土木工事の人足を大幅に集めたため男女比が崩れ、血の気の多い男たちは憂さ晴らしに喧嘩をし、時には火を点けて回った。
この頃にも悪い奴が居て材木の価格吊り上げのために放火を奨励していたらしいのは公然の秘密だった。
一昔前の下請け、孫請けに丸投げして利潤だけ抜き取っていく|大手建設会社《ゼネコン》が肥え太っていく一方で仕方なしに手抜き工事で工事費用を捻出する下請け会社、そして耐用年数を全うできなくなった建築物、大規模災害の発生も影響して早期に建て替え需要が起こるという負のサイクルとか、とかく悪は滅びないものだ。
まあ、そんな豆知識は置いといて今俺は戦いの中に居た。八メートルの巨大な金色の鎧を纏い、炎と氷の巨人たちと相まみえていた。
「くっ、やはり。さても重力の小さい月と言えども地面を飛び跳ねての移動では、対処しきれなくなってきたな。さて、どうしたものか?」
炎や氷のつぶてが無数に俺目掛けて襲い来る。流石に全てを黄金の矛盾《スィラーフ、ディルア》の劔で薙ぎ払うことも出来ずに巨大な金色の鎧に何度も攻撃が当たってしまう。今のうちは大丈夫だが、何とかしないとなあ。
試しに、炎の壁を前面に展開してみた。氷の巨人から打ち出される巨大な氷の槍は、面白いように炎の壁の前で溶けて消えていく。が、炎の巨人が繰り出す巨大な炎の剣は炎の壁を突き抜ける時に余計大きくなって先ほどよりも大きく金色の鎧を震わせる。
「くっ、炎の剣に対しては敵に塩を送っているようなものか。なら、氷河の壁で!」
結果は、炎の剣の纏う炎はかき消され氷河の壁に当たって落ちていくが。氷の槍はその凶悪な刃を大きく成長させて金色の鎧に襲い掛かる。
「やっぱり、頭の悪い攻防になってしまったか。これは、どうしたらいいんだ?」
しかし、どうにも魔導を操る特に複数の魔導を的確に操るのは難しいな。大体、水と炎とか土とか全然別物だと言うのに。しかも、黄金の矛盾を操りながら複数の魔導を行使するなど魔導師一年生の俺にはとても無理な話だ。
「それでしたら、面倒なことは下請け、竜さんの国でいうアウトソーシングすればいいのよ。なにか、そうね使い魔にやらせなさいなそんな些末な事象は」
「そうか、俺の使い魔と言えば、ネコになるのか。いや、だめだろう。あいつも一端に彼女とか作ってるしあれは一大戦力として利用するのが吉のはずだ」
「じゃあ、いっそ竜さんが竜さんのための竜さんだけの使い魔を作ってしまえばいいのよ」
「俺専用の使い魔を作る?」
「ええ。ネコだってこのあいだ、鏡を調整するのにゴーレムを作ってやらせていたのよ。だから、竜さんができないはずはないのよ。で、ゴーレムだと知性が足りないからお薦めはホムンクルスを造ることね」
「専用の使い魔を造るか。うーん、それしかないみたいだな。よろしくご指導頼むよ、ネコさん」
「まあ、竜さんの頼みだから仕方ないわね」
俺は安堵のあまり、ネコさんの細めた瞳が妖しく紅く輝くのに気付いていなかった。