さてと、何から始めればいいのか?
転移前の世界では、ずいぶん前に人類が月に立ってから月面探査は行われていなかったはずだ。あまりにも、再開されないものだからあれはフェイクで実際はスタジオで撮影された映像を世界中に流して米国が世界を欺いたとのだという説が一世を風靡《ふうび》したこともあったほどだ。
だから、こうして闇サイトで販売を持ち掛ければ結構な数の顧客が現れる訳だ。
『月の砂 一0g 0.一BSTより』 ・・・ 売上 一0BST
『月に堕ちた隕石 一kg 一BSTより』・・・ 売上 九八BST
『月に堕ちた隕石を文字盤にした腕時計 0.三BSTより』・・・ 売上 五三BST
『月に堕ちた隕石から打ち出した剣 0.七BSTより』・・・ 売上 三五BST
俺は、見ている間にも増えていく売り上げにほくそ笑むのだった。
ネコさんから、通信が入った。
「竜さん、訓練のお時間ですよ(笑)」
「ああ、来てしまったか。まあ、やるだけやる。いや、やって見せる。ヒントらしきものも準備もしてきたしなあ」
「うん?準備って、どんな?」
「まあ、いろいろと。いつもの金儲けさ」
「ふふ、そうね。それでこそ竜さんよ」
「うん?準備って、どんな?」
「まあ、いろいろと。いつもの金儲けさ」
「ふふ、そうね。それでこそ竜さんよ」
謎の盗聴システムでは、エコーのようにずれが生じているため地球ー月間の通信であることが図らずも証明されていたのだが俺たちにはそんなこと関係なかった。
俺は、ある程度の量の月関連グッズを闇サイトで販売した後は、通常のオークションサイトに偽物を多数乗せて荒稼ぎする。一点物の希少性を残しながら、大量生産であるフェイク商品を薄利多売することにより財を成す。まあ大手の企業がやってることだな、夢を売るとも言うが・・・
俺の説明を聞く、ネコさんの瞳が針のように細くなる。
「では、シミュレーションを開始します。この間、ネコに中継機を設置してもらったおかげで月の裏側とここの器材が繋がっているから魔導の力も効率よく観測出来るわ。
だから安心して、全力でやっても大丈夫よ、力が暴走して最悪の事態が発生しても月が無くなるだけで、こっちは無事だから。ご存分に、自分の力を試すのよ」
おい、そっちは良くてもこっちはシャレにならないぞ。それに、このあいだからスカーレットと連絡が着かないが月問題を片づけたら本腰を入れて探してみるか?
俺は、金色の鎧と金色の劔を空中に召喚して更なる変化をさせるべく意識を集中していた。劔は攻撃する力を具現するもの、対して鎧は守る力を具現するものこの対極に位置するものが果たして融合出来るのか?
古来より、最強の武器である矛と最強の防具である盾が相対するとき矛盾が生じる。最強の攻撃力と至高の防御力どちらか一方が残れば、その結果をもって敗れた一方は最強、至高ではなくなる。
だが、果たしてそうなのか。最強の武器は防護にも活かせる、至高の防具は攻撃にも活かせるのでは?
攻防一体の武器、防具となるのでは?
武器と鎧の融合、こ、これだ。
「武器《スィラーフ》、鎧《ディルア》、来たれ、新たな我が力よ!」
眩い光が、空中に浮かぶ劔と鎧から発せられる。劔が三つに分かれると鎧の兜と両肩に融合した。そして爆発的な輝きが止むとそこには高さ八メートルほどの黄金の人形が立っていた。
これが、俺の新たな力、「これがスィラーフ、ディルアか・・・」
呟いた瞬間、俺の身体は黄金の人形に吸い込まれていった。俺の視界が今までよりも高みにあった。
俺が、肩を竦めると八メートルの黄金の人形が肩を竦める。
「そう、それが竜さんの新たな力なのね。肩慣らしに、標的を送ったわ」
俺の前に、巨大な炎を纏いしトカゲのような魔獣が現れた。高さは十メートルくらいか、尻尾もそれくらいあるようだ。
トカゲが高温の炎を吐いた。俺は敢えて防御力を試すように棒立ちでトカゲの魔獣、まあサラマンダーでいいか呼称は、サラマンダーの炎を受けたが黄金の鎧はびくともしなかった。充分こいつの炎に耐えられるようだな。
「じゃあ、こっちの番だ。パンチ、キック!」
俺の拳は、黄金の鎧の拳。冷気を纏ったパンチがサラマンダーに当たった箇所から、サラマンダーの炎を消していく。凍らせていく。
俺の足が、黄金の右足がサラマンダーの顎を捉え、吹き飛ばしながら粉砕した。
「肩慣らしにもならないよ、ネコさん。もっと強うそうなのをご所望だよ」
ふふ、何にせよ新たな革新に触れたようね。本当に飽きさせない子ね。
俺は、昔の固定観念を叩き壊すまで訓練を続けた・・・