さて、今日は月にスペシャルゲストをお呼びしている。まあ、言わずと知れたネコさんだ。魔導の同時使用がうまく出来ずに困窮していた俺の状況に、優しくアドバイスに来てくれたのだ。ですよね、ネコさん?
「ネコさん、月面まで足を運ばせて済まない。今日は例の件についてご指導をお願いするよ。ひとまず、くつろいでもらってから中を案内するよ」
「いいえ、結構よ竜さん。あんまり、私がしゃしゃり出ると良い顔をしない人がいるみたいだし。一応、お忍びで来た|体《てい》でお願いするわ。正直、謎の月面基地に興味は尽きないんだけど。身の危険は避けれるときは避けるものよ、覚えておいてね」
「うーん、そんな危険なことは無いと思うけどな。たまに、流星群、隕石が落ちてくるぐらいで。まあ、師匠がそういうんじゃ仕方ないな」
「ふふ、師匠は、ないでしょ。これでも、竜さんの恋人のつもりよ」
「え、ええっ!」
「ふふ、冗談よ。じゃあ、さっそく訓練に入るとしましょうか」
ネコさんは、今日もなぜか白衣を着た美人研究者モードで月面基地を訪れている。あれが、世を忍ぶ仮の姿なのか?気を抜くと惚れてしまいそうなほどの美女ぶりだから逆に目立って仕様がなさそうだけどなあ。世の男どもが放って置かないだろう、まあだからネコさんの本来の姿であるシャム猫の姿は注目視されないのかも知れないが・・・
「うーん、何か形がいびつになるなあ。やっぱ月の岩場じゃ無理なんじゃ、ネコさん」
俺たちは月面に移動した。俺は座り込んで砂や石を相手に魔導の力を借りて捏ねまわしていた。そして出来上がったのが数体の石と砂で出来た不細工な人形たちだ。
「そう?ここの石や砂はとても魔導の通りが良くて、かなりの上物よ。じゃあ、見ててね。ほら、こんな感じ」
ネコさんが、俺の作った不細工な人形を掴むと俺に放り投げた。山なりに投げられた石の人形が光に包まれると形が朧にかすみ、また、はっきりと姿が見えたと思った次の瞬間には、そいつは自らの意思で放物線軌道からジャンプして俺の肩の上に乗った。毛並みまでが再現された、子猫の姿で。
「うわ、なんちゅう物を見せてくれるんや。こほっ、なんで石や砂から子猫が出来るんだよ。それに、あんな早くては何がなんだか分からないよ」
「ふふ、竜さん。魔導に大事なのは、不可能はないと自分に思い込ませることよ。出来ないことは出来ない、でもそれが本当に正しいの?出来るかもしれないのに、おかしな常識に縛られて試してないだけではなくて。
竜さん国では、昔、月にウサギがいたと信じられていたそうね。なら、月にはウサギではなく、猫のゴーレムが居てもおかしくないでしょ?」
ネコさんはにっこり微笑むと、やり直しましょう、と冷たく仰った。