アンドロマリウスの身体が溶けて光の渦と化してしまった。
「な、何の悪足掻きですか?虚仮威しにもほどが・・・・・・」
天使ザキエルの訝しむ声が虚ろに聞こえる。
『そろそろ天界の雑魚相手にしているのも面倒なのよね』
『うわー。な、何が起こったの? ち、力が漲ってくる!』
そこいるのは先ほどまでとは違い辟易した主と、己が力に戸惑う様子の下僕アンドロマリウスがいた。
『とりあえず、十柱分ほどあなたに力を預けたから・・・・・・
存分にやっておしまいなさい、アン!』
『なんだかわかりませんが、どうなっても知りませんからね?』
天使の元に炎が迸り、雷光が迫る。暴風が吹き荒れ、地面からは尖った岩石が突き上げる。極寒の冷気が、流星群が頭上から迫る・・・・・・
「く、うっ。動けない。たとえ、炎に焼かれようが氷漬けにされようが何ということは無いけれど。
な、何故?私が動けないだと!」
『ふんだ、突然異質な力を使ってるんだから。お前なんかにいちいち親切に説明してられませんよ。
そもそも、私だってよくわからないんだから。ご主人様も突然過ぎますよ。
はあ、やあ!』
『・・・・・・』
(ふうん、とりあえず服従している魔人たち十柱分をアンに融合させてみたけど。普段と同じ、とぼけた所とか変りは無いようね。
得体の知れない代物だし副作用とかが危なそうなので、自分で試すのは遠慮させて貰ったけど・・・・・・)
「う、動け、動け、動け!」
天使ザキエルが渾身の力で一歩踏み出すと、首を落とすはずだった真空の刃が頬を掠めた。アンドロマリウスの行使した魔導の力で変性した地面が水銀の池と化したところに足を取られ真っ逆さまに落ちてしまった。
水銀の池は高速の渦となって、ザキエルを翻弄する。
「うっぷ、うわー。これは一体なんなんだ?」
水銀の池から放り出されたザキエルは、銀色のザキエルそっくりの人形十体から様々な方法で攻撃を受けた。
地獄の業火で焼かれる。
極寒の冷気で凍らされる。
高速でぶつかり合う微小の砂で擦りつぶされる。
極太の雷光で撃たれる。
魔界の瘴気で苦しめられる。
何百倍にも増加した自身の体重で押しつぶされる。
強力な酸で溶かされる。
何も無い地の果てで、自分自身と殺し合う。
神に見放され仲間だった天使達に切り刻まれる。
永劫の止まった時の中で様々な業苦に苛まれる自分自身を眺める。
「ああ、嫌だあ!許してぇ。
もう嫌だ、こんなのは耐えられない。
ゆ、許してください・・・・・・」
ザキエルは涙を流して頽《くずお》れた。