「そう。無事に下僕一号から力を借りることが出来たのね。おめでとう、竜さん」「ああ、ありがとう。だが、そう目出度い話じゃないんだ。結構貯め込んでいた利益をかなり禿頭の小太り魔人に持っていかれたよ」
俺は盛大な溜息を吐いてから、ネコさんが入れてくれた美味しい紅茶を飲んだ。ああ、香しい香りとほのかな苦みと甘さに疲れが抜けていく。
「美味い、なんだか人心地つけたよ」
「どういたしまして。で、その魔人は?ああ、なんてこと。竜さん、セーレを相当痛めつけたのね。再召喚できるのは、明日になるわね。でも、どういう戦いをしたら魔界一の速度を誇る魔人の腹に穴を開けられるのか聞きたいところね」
俺は目の前でソファーに座り旨そうに紅茶を飲むシャム猫に闘いのあらましを語った。ときおり紅茶を冷ます合間に、手を舐めたりして興味の無さそうなポーズをしているが、そのくせ青い瞳を輝かせて聞き入っている様子を隠せていない。
「そう、思い切って極限まで黄金の鎧に資金をつぎ込んだのね。なるほど、迂闊なセーレは、勝ち誇って大上段から竜さんの剣で渾身の力を込めて兜を断ち切りに来て逆に骨を折られ、剣も失ったと。
あはは、見ものだったでしょうね。あの下僕一号があっけにとられた顔で固まっているのが目に浮かぶようだわ」
「まあ、かなりご立腹だったのは確かだな。まだまだ、これからも力を借りなければならないのになぁ」
俺はこれからも続く下僕一号の使い魔との闘いに、嫌気がさしてつい溜息をもらしてしまった。そのとき、俺のスマートフォンの着信音が鳴った。
「よう、スカーレットかどうした。珍しいなこんな時間に連絡をくれるなんて、まだ仕事中だろ?」
「その妙に落ち着いている所をみると、まだ状況を掴んでないみたいね。こっちは大変よビーストコイン(BST)の大量売りが発生してBSTは大暴落よ」
え?俺はスマートフォンで仮想通貨の情報サイトを呼び出すと主要な仮想通貨のチャートを眺めた。なんてこった。ははー、そういうことか。
「ところで、スカーレット今日は何日だい?」
「何日って、いったいどうしたの。今日は十二月十七日に決まってるでしょ」
「まあまあ。落ち着いて、二0一七年だよね。だったら、打つ手はあるからさ。目立たないようにBSTを買い集めてくれ、資金は今送ったから」
「でも、こんな理由もわからずに大量売りされたら誰も怖くて買わないわ。みすみす、損をするだけよ」
「ああ、普通ならね。だから買い集めたBSTは一月七日に売り払うのさ。そして、今度はイーチャリアム(ECH)を買うんだ」
「え?何だか、判ったかも知れないわ。つまり、あなたには暴落の理由と相場の動きが見えているのね」
「ああ、見えているよ。BTCの大量売りの犯人は俺だからな」
スカーレットの息を飲む音が聞こえた。きっかり三秒ほど時間を置いてスカーレットは同意を示した。
「で、買い集めは私がやるとして売り払うのは竜がやってくれるのね。とてもタイミングがシビアなはずだから。ええ、明日からBSTを買い漁るわ。今日はこれからお酒を飲んで寝ることにするわ。
二日酔いの私は、間違って電子ごみのBSTを買い込んでしばらく業界の笑いものになるはずだから。
この埋め合わせは、高く付くわよ。竜、じゃあまた。落ち着いたらカラクリを教えてね」
「ああ、恩に着るよ。ベストパートナーに乾杯」