ホムンクルスが己の左手を握った瞬間、虹色の輝きが左手を包んだ。そして虹色に輝く左手が鍛冶師の造り上げた左腕に吸い込まれると輝きが収まった。
ホムンクルスの左腕には、虹色の鱗に飾られた|籠手《ガントレット》が肩まで覆う形で装着されていた。
「これは、さすがワフードさんの作品だな」
『ふむ、まったくもって悪くない造りだ。元の腕にもよく馴染むな、これは』
「ふーん、ホムンクルスさんも気に入ったみたいだし。もう、用は済んだでしょ。帰ろうよキール」
「そうだな、じゃあ。また、船頭を呼んでくれ」
『ふふ、船頭か。まあ、今の奴にはそれくらいが相応しいか・・・・・・
我が僕、セーレ疾くと現れよ!』
怪しげな煙が現れ、そして消えるとそこには、禿頭の太った中年男がいた。
『せ、船頭呼ばわりとは酷すぎるよな。もう、いつだって俺は損な役回りで詰まらない役どころしか与えられず。ほんとに、なんだって俺は・・・・・・』
『セーレ、お前何か考え違いをしてないか?』
『考え違いとは、ソローン様?』
ソローンは左手のガントレットを閃かせると、悪態とも愚鈍ともとれる不敬な態度の僕セーレを横薙ぎに殴った。哀れなセーレは、通路まで弾き飛ばされた。
『判らぬか?セーレ、ならば一度だけ聞かせてやろう。
魔導の神髄とは、惑う。すなわち変幻自在の幻によって相手を惑わせること。
それをいとも容易く心中の不満を吐き出して、何が魔導の徒か、何が魔人か!』
ソローンは、右手から雷を発するとセーレを軽く感電させた。
『うわっ、申し訳ございません。
無事に左腕の奪還おめでとうございますぅー』
脂汗を流しながら、懸命に追従を言の葉に換えてセーレは平伏した。
『ふむ、少しは身に染みたか?では、街に戻る。我らを運べセーレ。
おい、愚図愚図するな!』
「ほう、首尾よく左腕を回収できたようだな。部品《パーツ》の変形補完機能も十全に動いている様で重畳じゃな」
「まったく、ワフードさんの作品はすばらしいよ」
「ま、なんにしろ慣らし運転《シェイクダウン》は上手くいったことだし。わしも遣り甲斐のある仕事が出来て満足だ。また、必要な物が出来たらケーンに言ってくれ」
「世話になったよ、ワフードさん」
「で、今度は何処に行くのキール?」
「ああ、その前に腹ごしらえをな。ところでリサは、蝙蝠料理の店と猿の脳味噌を出す店、どっちがいい?」
「ええ!それってどっちかしか駄目なの?」
『ふむ、なら蝙蝠が食べたいな。キール、今日は我が働いたのだ。我に選択権があるのが道理ではないか。蝙蝠のフライに、蝙蝠のスープ、蝙蝠の翼サラダ、蝙蝠ステーキ。
魔力を蓄えるには丁度良い食材だとマスターも言っていたぞ。ほれ、早く行くぞ!』
「まあ、そういうことなら。リサ、行くぞ」
「ええー、考え直してよキール!」