それにしてもあのシャム猫は一体何者なのか?
『拙者の反魂の術で捕まえた魔鳥ポエニクスの羽を速やかに我が主に届けねば・・・・・・ 臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前(ぬおー、魔導の力が満ちていくわ)
今こそ我の日頃鍛えし技を、秘術の限りを尽くして主の恩に報いる時!』
帰路を急ぐ魔人サミジナの行く手を塞ぐように有象無象の魔界の雑兵が、屯していた。
『早速実戦で試すときが来たか、虫遁の術!』
魔人サミジナが左手で印を結ぶと無数の蝶や蛾が何処からともなく現れ、魔人サミジナの気配を隠してしまう。俄かに現れた無数の蝶や蛾は食欲旺盛な魔界の雑兵に喰われていくが、全て食べ尽くしたときには魔人サミジナの気配を捉えることはできなかった。
まるで地獄の釜が引っ繰り返った様だ。まあ、そんなところかも知れぬのう? 雑多な魔物たちが、無秩序に暴れまわっている。弱い者を強い者が食い散らかし、喰った者も更に強い別の魔物に喰われていく。
大陸の端からも亡者の群れが彷徨い、まるで踊り狂うがごとくふらふらと生ある者に憎しみを込めて齧り付く。
『浅ましいものよ、成仏せよ!』
魔人サミジナの愛刀が行く手を阻む亡者の群れを当たるを幸いに切り捨てて逝くが数があまりにも多かった。その数は億を数えていただろう。
『ふーむ、人遁の術!』
魔人サミジナの術により、亡者の群れの中に恰好の餌が現れた。活きのいい難民が右往左往して一人また一人と亡者に噛みつかれていく。
するとどうしたことか、生者を喰らった亡者が再び生きとし者に生まれ変わったのだ。だが、周りは夥しい亡者の群れの中に生まれ変わった生者とて数舜を待たずして他の亡者に集られ、喰われてしまう。
だが、それでも生者が魔人サミジナの代わりに亡者を引き付ける餌として目まぐるしくその存在を亡者と餌である生者をいったり来たりしていた。
『ふふ、所詮亡者ごときを欺くのは容易いことよ。おっと、いかんいかん。
術の成否を終いまで見物している時間の猶予は無かったでござる。待っておられる主君に秘められた謎の正体を告げねば・・・・・・』
魔人サミジナがまたもや印を結ぶや、大きな蛇が現れサミジナをその頭に乗せると途轍もない速度で生者を貪る無数の亡者の群れから去っていった。
大陸のほぼ端から端へ走り抜ける旅であったが、少し自慢の忍術が使えて気分を良くした魔人サミジナが鼻歌混じりに先を急いでいると。
『ほほう、何やら毛色の違った活きの良い奴が現れたのう!』
忍び装束に隠し切れぬ馬面で鼻息荒く走る姿の癖に鼻歌を混じえる余裕のある異形に食指を刺激された魔物が一体道を塞いだ。
一見黒髪の人型に見えるが、その膂力を秘めた筋肉がライオンの素性を隠せない。
『某《それがし》、先を急ぐのでそこを退いてくれぬか?』
魔人サミジナが右に、左にすり抜けようとするのを巧みに巨体で塞ぎながらライオンの魔人が嗤う。
『退かぬと言ったら、何とする!
少々力試しをする相手に出くわせぬでイライラしていたがお主、相手をせい!
魔界の序列五位、三六の軍団を率いる我地獄の大総帥バルバス様のな!!』
(頼んでも詮無きこと、刻が惜しいときに厄介な奴に出くわしたのう・・・・・・)