分厚い鉄のドアが軋みながら開かれたため、わずかに風が吹くというか空気が動いた。
「ほう、話には聞いていたが。これは美人だなあ、拷問なんかで壊してしまうのが惜しいな」
「たしかになあ、この女これでも凄腕のM&Aアドバイザーでかなり有名らしいけど。何を考えているのか核物質を盗み出してテロ組織に売るとか。冗談はパルプ雑誌の中だけにして欲しいもんだな」
抵抗の出来ない美女を、好き放題に拷問できる好機を迎えて、舌なめずりしながら男たちが、近づいて来る。
「ち、近寄らないで!くっ、こんなはずじゃあ・・・」
---
「じゃあ、ジョージさん。今まで本当にお世話になりました。このご恩は何て軽々しく言えるような簡単な物じゃないが、心底感謝しています」
「ふふ、まあこの1、2年を退屈せずに過ごせたのも竜君、お前のおかげだ、礼には及ばぬよ。しかし、これほどの物を創り上げるとはなあ」
ジョージさんは、お披露目のため館の庭に鎮座する銀色の乗り物、宇宙船に目を細める。確かに見る人が見ればこれがどれほどの代物か想像がつくだろう。地球の科学の結晶、錬金術、魔導、鍛冶などのあらゆる技術を総動員して創り上げたのだから。
「そう言えば、下僕一号。あんたにも世話になったな。あんたに借りた数々の魔人の力がなかったら、いまだ宇宙船の完成の目途すら立たなかっただろう。
ほんとに、ありがとうな」
「礼など要らぬ、マスターに力を貸せと言われていたから貸したまでのこと。他に意味など無い」
「まあ、それでも。例えそうだとしても俺はあんたに感謝してるぜ」
「ふん」
下僕一号は、そっぽを向くと館の中に引っ込んでしまった。
「よし、発射基地へ移動だ!乱導竜が命ずる、魔人一号《ワーヒド》セーレ、二号《イスナーニ》セーレ、三号《サラーサ》セーレ、四号《アーバカ》セーレ、疾くと我が前に現れよ!」
「お呼びにより参上しました、ご主人様。また、割に合わない仕事を、ご主人様。どうせ俺なんか、ご主人様。この間も尻拭いさせられたのは俺なんだぜ、ご主人様」「相変わらず、減らず愚痴が多い奴め!今日は、目出度い出発の日だから許すとするが、まあ良い。ユスキュー大陸の発射基地まで俺たちと宇宙船を運ぶのだ」
「ははあ、ご主人様」
「どう、そっちの具合は?」
館の研究室兼指令室に座るシャム猫が、欠伸をしながら俺に尋ねる。既にモニター器材により宇宙船の調子は絶好調であることが判っている癖に。俺の緊張を解そうとしているんだろうな?
「全て順調だよ、ネコさん。なあ、ネコ船長?」
「このネコが操縦桿を握る限り、安全確実に月まで飛べるのに決まってるにゃ」
「そうね、こっちのモニタでも異常は見られないないわ」
「ネコさん、今までありがとうな。ホント、今から月に旅立てるのは七割り以上、ネコさんのお陰だよ」
「まあ、そういうことにしておくから。月の魔石ぐらいは、お土産に持って来るのよ」
「じゃあ、発射シーケンス開始」
「了解、船内全て異常なし」
「秒読み開始、五、四、三、二、いってらっしゃい!」
「セーレ!GO!!」
二組の双子の魔神、セーレ四人衆が宇宙船をジェットコースターのレール上で加速させる。十数秒後には、レールを離れ大気を切り裂きながら宇宙船は飛翔を続ける。
数分後には、後方カメラによって地球が青い球体として離れていく。
またしばらくして、ネコさんからの通信が入った。
「竜さん、月への軌道に乗ったみたいね。アンドロディテクタで測定する限り、誤差はほとんどないわ。後で修正タイミングを送るからその時に微修正してね」
「了解。漸く月に向けて旅立つことが出来たな」
「これから、何が待ち受けているのか。何にせよだ、ワクワクするなあ、ネコ!」
「もう、こんな所で変なフラグ立てるのは止めるにゃ、ご主人の悪い癖にゃ」