通常魔界の尖兵を率いる場合は何らかの手段で魔導の力を事前に蓄積しておかなければ地上界で活動できない。まして、軍団レベルの戦闘で役に立たせるためにはそれなりの準備が必要になるものだ。
「ようやく、魔界序列一位の魔人にお目に掛かれる時が来たようだね。僕としてもうれしいよ、ふふふ」
『ご主人様、キュルソンが討ち取られた模様です。やはり、あ奴には荷が重すぎたようですね。私に戦場に出て戦えとご命令ください!』
『アン、まだ早いですよ。言ったはずです、向こうにはザキエルがいます。とりあえず、ザキエルに任せましょう』
逸る魔人アンドロマリウスは、歯ぎしりして主力を失い殲滅されていくゴーレム軍団を尻目に、戦闘の後方で寛ぐザキエルを睨んだ。
「シェーラ、来るよ。今回のメインゲストが、後ろに退がって見物していなよ」 「え?きゃあ!」
魔人アモンを従えて不気味な靄が丘の上に陣取るザキエルの前に、カサカサと音を立てて進み出た。靄が晴れると、巨大な蜘蛛が姿を現した。
『ほほう、天界を追放された天使がいると噂になっていたがその方がその追放者か?』
「うん、まあ色々とあってね。今じゃ天界のメンバーだった過去は抹消されてソローン様の七十三番目の下僕のザキエルだよ。覚えなくても良いけどね、どうせあんたには、消えて貰うからさ」
『魔界序列一位、六十六の軍団を従える王の中の王バアル様に対して随分と大きく出たな、天界から追われた厄介者が!』
『まあよい、アモン。キュルソンのような雑魚との闘いでは満足できぬであろう? ゆるりと、ザキエルと遊んでみよ!』
巨大な蜘蛛の胴体にある三つの首の内の一つ、蛙頭が大儀そうにしゃべった。 『ははあ、このような天使崩れなどものの一分で片付けて御覧にいれましょう』
ザキエルは首をこきこき言わせて、ゆっくりと立ち上がった。
「まあ、お手柔らかに頼むよ」
魔人アモンの音速を超えた左右のパンチを受けてザキエルの両腕が肩から千切れ飛んでいった。
が、いつか見た幻のように猛スピードのパンチを放った魔人アモンの両腕が肩から先を失っていた。
『お、おのれ!面妖な術を使いおって。だが、この程度で俺様がくたばると思ったかぁ!』
怒号を放つと、魔人アモンの腕が先ほどよりも強化されて再生していた。その両腕にはそれぞれ闇の光を放つ魔剣が握られていた。
『ザキエルとやら、誇ってよいぞ。俺様に魔剣を握らせたことをな、死出の旅路の花向けだ。とくと見よ、無残剣!』
奇妙な太刀筋であった、避けようと思えば素人でも簡単に避けられそうに思えた。近接戦闘が苦手なザキエルでも避けられる、そう思わせるほどゆっくりとした剣を左右ともに避けたはずだったが、ザキエルの首と胴は泣き別れとなり派手に血飛沫を上げて頽れた。