紅い液体を注入された、赤い柔らかな肉を生で食べさせられた・・・・・・
『いったい何処をうろついているんだい、ナベリウス!
まあ、いいか。オロバス、隣町まで乗せてくれ』
『かしこまりました、ヒヒーン』
魔界序列五十五位オロバスが黒馬の姿で現れると、キュルソンが呼んでも番犬が戻って来ない不自然さを誰もが忘れてしまったようだった。
「行ってらっしゃいませ、キュルソンお姉さま」
『ああ、うちのしょうがない駄犬が出歩いてるからいつもより用心するんだよ。 一応、ガープを護衛に付けておくけど蝙蝠の醜い姿で君を驚かすといけないから隠れている様に言ってある。
じゃあ、シェーラ。行って来る』
若い女主人と軽いキスを交わすと、黒馬に跨りキュルソンは去っていった。
(早く帰って来てください。
うーん、蝙蝠さん?前は怖かったけど、今は平気なのになあ・・・・・・)
「なるほど、キュルソンはお出掛けと。魔界序列三十三位ガープか。手強そうですね。一旦今日は引き上げますか、姉御?」
『新参者、誰が姉御ですか。巫山戯《ふざけ》ていると、また蛇で打《ぶ》ちますよザキエル!
しかし、キュルソンがいない今はチャンスです。たかが魔界序列が四十ほど高くても所詮は人間界での知名度みたいなものなのです。
戦闘力とは違うところを見せつけるのよ!
第一あなたは天界から除名された身、謂わばランク外なんだから、気にした方が負けよ』
「まあ姉御、いやアンドロマリウス様はロノヴェ様と比べてメンタル強そうだから奴とは相性いいかも知れませんね。
僕は精神攻撃とかめんどくさいのは御免ですけど」
『まあ、ロノヴェよりメンタル弱い子を探す方が難しいんだけどね。
それより、あのシェーラって娘を攫ってしまえばガープを誘き出す餌になるわね。あなた、そういうジゴロみたいなの得意でしょ。さっさとあの娘を攫って来なさい!』
「はあ、人をスケコマシみたいに言わないで欲しいな。得意なのは信者の獲得ですよ、僕は聖職者歴数百年のベテランですから。
まあ、いいでしょう。お茶しに行って来ますよ」
ペテン師の本領発揮というか、図々しく店先に出て来た若主人を口説いてまんまとお茶屋に連れて来るザキエルに呆れた顔のアンドロマリウスであった。
「やはり、いろいろなお話を知っていますのね神父様。
この店のお菓子も素晴らしいですわ、今度うちでも販売しようかしら」
「ふふ、気に入って貰えて僕もうれしいですよ。
ちょっと珍しい外国の品がうちの教会に有るんですが、ご覧になりますか? とても綺麗であなたにこそふさわしい物なんですよ」
「まあ、そうですね。まだ陽が高いですから、それほど遅くならないならお邪魔しようかしら」
ザキエルの手練手管にいいように酔わされたシェーラは、のこのことザキエルの用意した教会に馬車で連れ込まれた。
遠くから様子を覗いていたガープは、あまりにも小物臭が漂うザキエルのナンパ仕事に危機感も覚えていなかった。そこへ。 『さあて、あんたのお姫様はこっちで預かったよ。
返して欲しかったら、そのまま誰にも言わずに来な!
まあ、怖かったら助けを呼んでも構わないけどさ』
『誰が、この俺ガープ様を誰だと思っている!』
『まあ、手間が掛からなくて結構なことだよ。じゃあ、付いて来な』