ふう、バアルの痕跡は残念だけどもう残ってないみたいね・・・・・・
『初期化《ICO》(イニシャル・コイン・オファリング)!
我、ソローンの名において命ずる。魔界序列二十位、二二の軍団を統べる王キュルソン、我が軍門に下りし故最下位の使い魔としてその務めを果たせ!』
片手片足を失い纏う衣服もボロボロの状態だった魔人キュルソンが金色の光に包まれソローンの右耳のピアス七十二の壺《真鍮の壺》に吸い込まれ、またしばらくして姿を現したときには傷はすべて癒え衣服も整えられていた。
『・・・・・・ 御意、ソローン様』
「ふふん、これでキュルソン姉さんも僕より下っ端になったんだね。今までの恩を返す時が来たんだね」
悄然と頭を垂れるキュルソンの姿にほくそ笑むザキエルの神父服が誰の目にも嘘っぽく映ったが気にする者などここには居なかった。
(くっ、遂にザキエルよりも風下に立つことになるとは・・・・・・)
「そう言えば、教会のトイレが汚れていたんだけどなあ。
誰がやってくれるのかなあ?」
『(おのれぇ・・・・・・)わ、私がやっておきますザキエル、さ、様』
「ふうん、いい心がけだねぇ」
『大変です、ご主人様!
敵が、多分バアルに与する魔人たちが多数、西から迫って来ています!』
慌てた様子で飛び込んできた魔人アンドロマリウスの報告を受けてにっこりと微笑むホムンクルス、そのとき魔人セーレが凄まじい勢いで飛び込んできた。
『おお、もうお終いだ。いつもこうなんだよな、俺のターンが始まろうってときにはいつも決まって何かが起こるんだ。せっかく下っ端が来たっていうのにもう俺はここで終わりだあ!』
『茶番は置いとくとして、皆いくよ。ザキエル、先陣は任せた役に立つか分からないけどキュルソンも連れてお行き』
「はい先陣請け賜わったよ、ソローン様」
『セーレとアンはここで待機、相手の戦力を見る』
『て、ことはザキエル達は捨て駒ですか?』
驚くアンドロマリウスに静かに答える。
『案ずるな、ザキエルはあのキールの身体と融合しているのよ。いくら数が多くても通常の攻撃には耐えられるはずだ。まあキュルソンの方はいささか頼りないけどね』
教会の西の丘を越えて雲霞のごとく魔界の軍勢が砂塵を上げて迫って来ていた。 「ふーん、結構数を揃えたようだね。こういうのを遣り甲斐って言うのかな?」
『ザキエル、様。アタイにも手柄を立てさせておくれよ。騙されて馬鹿なことをしたアタイを許してくれたソローン様に、そうでもして恩返しをしないと気が済まないよ!』
「まあ、それほど言うならキュルソンにやらせてあげるよ。先陣の先陣をね」
『助かる、行くよ。アタイの力は、命はソローン様に捧げる。
行くよ、岩石突撃兵《ロックトルーパー》!』
キュルソンの魔導の力が周囲の岩山にぶつかると数百の岩石で出来た騎馬隊が出現した。先頭の一際大きな騎馬にキュルソンが跨ると矢のような速度で騎馬隊は魔界の軍団に襲い掛かって行った。