礼拝堂には濃密な血の臭いと汗に混じって、その場に相応しくない甘酸っぱい匂いが立ち込めていた。
うほぉ、ほぉー。
いやー、きゃあ、ああ、そこは・・・・・・
修道服がところどころ破けた八人の若い娘たちを超光速で移動しながら繊細なタッチで嬲り凌辱する太っちょの魔人セーレの野太い色気狂いぎみの声と乙女たちの嬌声が漏れ聞こえて来る。
ねじ曲がった虚栄心が己の技術《テクニック》を見せびらかしたいのか無駄に魔力を浪費して周りの者に動きをゆっくりに見せているのは流石に魔界のナンバーズだけあると言わしめる凄まじい魔導管理能力の高さであった。
「あっははは。そうか、自分で自分を殺させるとはね。
それに素直に従うキール君もあれだけど、ソローンさんも相変わらず厳しいお方だなあ。あは、はは。
既にお気づきの様にあなたの大事な右腕と左足は、言わば人質です。あの祭壇には"天の祝福"が仕掛けてあります、私の意思一つで祭壇ごと手足は塵一つ残さず消え去りますよ。
それなのに、切り札を自ら捨ててどうしようと言うのかな?」
ザキエルと名乗る神父は、陳腐な脅し文句でホムンクルスに言外にお前の負けだと示す。
『そろそろ、下手糞な人間の小芝居なんてやめなさい!見てて反吐が出るわね』
「これは、お厳しい。まあ、勝者の余裕とでも言っておきましょうか。一応信者の前ですからね。
しかし、あなたも余裕がお有りですね。まさか、そこの速いだけが取り柄のエロ魔人を頼りにしているんじゃないでしょうね?」
『流石にそれは無いでしょ。ご主人様が頼りにしているのはわたしよ!』
「ふん、魔界序列七ニ位の底辺魔人が血だらけの死に体でほざきよる」
『くっ ・・・・・・』
『・・・・・・ ああ、なるほど』
「ようやく自分の負けを認めたようですね、結構」
『ふっ』
ホムンクルスは、左手に持ったスマートフォンのアプリを起動するとあるコマンドをタップした。
『回収モード!』
ホムンクルスの右腕と左足が一瞬微細で無数の光の渦に変わると、彼女本来の手足が胴体と接続されていた。
驚くザキエルが祭壇を見ると確かに先刻まで浮いていた手足が消えていた。 「お、お前どうやって?」
『キールが死の間際に、力をくれたのさ。そろそろ宴にしようか』
キールが短剣で自害したとき、勝利を確信したザキエルには、見えていなかったのだ。
キールの体が床に倒れ込むとき、彼はスマートフォンをホムンクルスに投げた。 彼の唇は、『これを使え』と微かに動いたようにホムンクルスだけに見えていた。
高まるホムンクルスの魔導の力に、冷や汗を流すザキエル。
「え、ちょ。ちょっと待って!」
魔導の圧力をまともに喰らって、壁に吹き飛ばされるザキエル。