現在ホムンクルスが奪われた部品《パーツ》のうち奪還したものは四つ。最初に心臓、次に頭、そして左腕、最近回収したのが右脚だ。
「ねえ、キール。今度のお宝はまだなの?もう、いい加減飽きて来たんだけど山道を登るのは」
「まあ、目的地はすぐだ。あそこに見えているだろう」
キールが指し示すのは、微かに見えているこの山の頂だ。たしかに見えてはいるが道なりに登るのならかなりの距離がまだ残っている。
「私が言っているのははっきり場所が判っているのなら、前みたいに魔人のおじさんを呼んで飛んで行けばいいでしょう、ってことよ」
「ああ、そのことだが・・・・・・
この辺りでは、魔導の効きが極めて悪いみたいでな」
『そうね、何重にも張り巡らせた結界が下僕の召喚を阻んでいるから今は無理ね。とにかく山頂から洞窟に降りて行くしか無いわ、小娘』
「ええぇ!、山頂まで昇ってまだ続きがあるの。もう、こんなハードなんだったら宿で寝てるんだったわ」
「ふん、リサは俺を守ってくれるんだろ?」
「それはまあ、やるけどさあ・・・・・・」
それから二時間くらいで山頂に到達すると、そこからは洞窟目指してほぼ垂直の岩壁をロープを頼りに洞窟の入り口まで降りていく苦行が一時間ほど続いた。
「ああ、やっと入り口ね。帰りは楽に行けるんでしょうね」
「まあ、無事にお宝を頂けたらそれこそ飛んで帰れるだろうさ」
『・・・・・・』
途中、幾たびか雑魚の魔獣どもを退けたキール一行はとうとう宝物庫の扉の前にたどり着いた。
「ああ、やっと着いたのね!」
『待ちくたびれていたぞ、ホムンクルスとその他の有象無象』
宝物庫の扉がひとりでに開くと、広い部屋の中に煌びやかな宝石や財宝とともに女と娘が立っていた。そして、その最奥には人間の、いやホムンクルスの胴体が浮かんでいた。
『ここにいたのか、キュルソン。そろそろ、いままでの無礼の返礼をする時がきたようだな』
『ふっ、ソローン。お前は動くな!お前の胴体がどうなっても良いのか?
今、我に手向かいせば未来永劫お前の胴体は戻らぬぞ。あの魔導師がせっかく作った胴体がな、それでも良いのか!』
キュルソンが右手を上げると、おどろおどろしい深淵の入り口が開き、今にもホムンクルスの胴体を飲み込みそうにまとわりつく。
『くっ、待て。では、見ていれば良いのだろう。キールの闘いを』
『ふっ、人間ごときを頼みにするとは見下げた奴よな』
「まあ、任せておきな。俺とリサで何とかするさ」
「ええ、無茶言わないでよ。魔人とは、無理よ」