地上の遥か上方では激しい嵐が吹き荒れていた。
「こうも人間ごときにおめおめと敗れ去り軍門に下るとは情けないにもほどがある。おのれザキエル、神の威光に泥を塗り寄って!」
天使アンドレが吼え猛り、無駄に腕を振り回すたびに暴風が辺りを席巻する。
欠伸交じりに茶々を入れるお調子者の天使バルバロイ。
「そうは言うけどさ、ザキエルが敗れたのは人間じゃなくてそいつに作られた人形と使い魔の魔人だよ。まあ、天界の威信を背負って負けたんだから神の威光を傷つけたのには同意するけどさ、あは」
「じゃあ、次の討伐にはこのタダイが行こう。何、所詮はザキエルなどの屑に勝ったとはいえ下賤な人間に造られし人形とそれに付き従う魔人どもなど、このタダイが蹴散らしてくれる」
「いや、その役目是非、このシモンにお任せください!」
長い銀髪を靡かせ皮肉気に熱心な天使たちに水を差す天使。
「ふう、みんな点数稼ぎに熱心だねえ。そんな些事、神様が気にするはず無いのに。もう、放って置けばいいのさ地上の争いなんか。今はもっと大切なことがあるはずだよ、僕たちにはさあ」
「ふん、いつもの日和見臭いセリフだなユダよ」
鼻で笑い尊大な態度で上座に座るこの場で最上位の天使。
「これはヤコブゼータ様、やはり本日もペトロ様は欠席ですか?」
「まあな、ペトロは今忙しいのだ。そこのユダが言う通り、地上の些事に関わり合う暇はお主たちにも無いと言うことだ」
「それは、やはり世界の不可解な移動に関してでございますか?」
「そうだ、マタイ。今後どのような災いが起こるか予測不可能なのだ。故に今回の一件は天使の身分を騙ったザキエルという愚かな魔人が、ホムンクルスに敗れたということにする。
いや、それがたった一つの真実であり歴史に刻まれる史実でもある。良いな、ザキエルなどと言う天使は最初から居なかったのだ。
皆よいか心して聞け、我ら天使は元々十一天使だった。それだけのことだ!」
ドシンっ!凄まじい音とともに天界の会議室が揺れる。
「それが神の決定なのか、ヤコブゼータ?」
天使のナンバースリーでペトロが欠席のためこの場では次席のヤーネが踏み鳴らす足によって又も会議室が揺れた。
「そうだ。これは神の意思、決定事項だ!」
「ならば、従おう ・・・・・・」
天上の会議室に張り詰めた緊張が解けた。
「そこでだ、ユダ地上に出向いてラッパを吹いて回れ。『ザキエルは天使に非ず、天使を詐称した魔人である』とな。
法螺吹きのお前には最適の仕事だろう?」
「はいはい、行って来ますよ。下っ端は辛いねえ」
(え?僕って魔人だったの!十二天使の記憶があるんだけどなあ、まあどうでもいいんだけど。
あ、こっちじゃ魔人が幅を利かしているんだから逆に地位向上か。
やったね!)
「ふーん、ザキエルが喜んでるのが癪に障るねぇ」
世界中でラッパを吹きまわった疲れをとるため立ち寄った街で見かけたザキエルの心をつい覗いてみたら余計疲れた天使ユダだった。