超急加速という言葉が信じられないほど船は揺れもせず進んでいく。まあ、いちいち加減速を中の乗員が感じてしまうようでは生命維持に支障を来たすことを考えれば当たり前の話ではある。
通常の生命体が操縦する場合は、加速減速を緩やかに伝える必要もあるがこの船の場合はそもそも主たる操縦者が船のセンサーと直結されているので単なる乗客に知らせる必要を設計者は感じなかったみたいだが・・・・・・
『ちょっと、席を外すけど着いたら教えてねアルド』
「了解です、お客さま」
「おい、もうすぐ目的地に着くぞ。こんなときに何をする気だ?」
『もう、大事なときだからこそ。独りで落ち着きにいくのよ。そんなこともわからないの?』
「え? ・・・・・・ まあ、大変そうだな」
『アン、おまえも来なさい』
『はい、ご主人様』
ホムンクルスと魔人は割り当てられた自分の船室に一旦籠るようだ。
「お客様、三九秒後に到着します」
『・・・・・・ わかった』
「目標座標上の空間を投影しています」
「おお、なんだあのいかにも人工的な見た目の惑星は」
「ご主人、あまりにも見たそのままの表現だにゃ。あまり知性を感じさせないにゃ」 「各種シールド、魔除け?トラップの類が張り巡らされているようですね。直接惑星上に本船から転送するのは失敗確率九九.九九九・・・・・・パーセントですのでお勧めしませんよ、お客様どうされますか?」
しばらく表面にボルトやリベットで装飾した造り物じみた惑星を睨んでいたホムンクルスが決断した。
『いいわ。アルド、適当な距離に私を転送なさい。この船は連絡するまでこの辺で待機してなさい』
「おい、ソローン。あまりにも無謀だろう、確実にジョージさん(『ソローンの造り手』があの惑星で待っているとは言えないだろうに」
「そうにゃ、宇宙遊泳はちゃんと訓練しないとミッションに参加できないにゃ」
『私にはわかる、あの星はマスターが趣味で造ったもの。ところどころに意味のない溶接跡とか機械の錆とか、変なディテールに拘るところは私のマスターよ』
「そうね、マスタの趣味の悪い所が随所に見られるわね」
「ネコさんがそう言うなら、任せるか」
「了解、ご主人様。ソローン、惑星上空一キロメートルに転送します。大凡五百メートル付近からトラップ等が発動すると思われますのご注意を」
『うん、それでいいわ』
--- 特に危険なトラップやシールドに阻まれることも無くソローンは、惑星に降り立つと一瞬にして惑星内部の建物内に移動していた。
「おお、ソローンか。いい所に来た、足りない材料を取って来てくれぬか?
そうだな、ポエニクスの羽とアモンの尻尾だ」
『マスター、・・・・・・ 仰せのままに』
『ポエニクス疾くと現れ、我に羽を献上せよ!
アモン疾くと現れ、尻尾を献上せよ!』
『御前に、この羽はそれほど頻繁にお渡しできませぬことお忘れなきように』
『くっ、この俺に尻尾を差し出せとは・・・・・・
ここに置いてゆくぞ』
魔鳥ポエニクスは羽をソローンに渡すと揺らぐ炎のように消えていった。
魔人アモンは、痛そうに腰を振りながら歩き去って行った。
それを見ていた魔導師『ソローンの造り手』が呟いた。
「ほう、腕を上げたなソローン。見違えるようだ、昔の何でも力技で抑え込むだけだった頃が嘘のように思えるほど。よくぞ魔導の修練を究めてみせたな」
『マスター、材料はここに・・・・・・ お褒めに預かり恐縮です』