『ガァオーン!ガァオーン!!』
(滾ってきたぜ、雑魚の群れには飽き飽きしていたところに丁度いい獲物が現れよった。まさに俺様の覇道を祝うかのようだぜっ!)
ライオンの姿をした魔人が突然地面を揺らすほどの低音かつ大音響で咆哮を放ったのに魔人サミジナはほとほと疲れ切った顔で呟く。
『ヒィーン、勘弁して欲しいでござるのに、忍びとは刃の下に心成らぬ堪忍するが堪忍。獣《けだもの》に遭うては獣を斬り、幼子に遭うては幼子を斬る!』
魔人サミジナが腰に差した愛刀を抜いた。
『ぬあにー我を幼子と申すか、その小さな身体をずたずたに噛み砕いてやるわ!』 二体の魔人が交差する。片や激高した感情を乗せた暴力、片や冷えた眼差しで鍛え上げた技がぶつかり合う。
凄まじい音と熱を伴う光が辺りを襲い、有象無象の亡者の群れが砕け散って逝く。 大小二つの魔人が位置を入れ替え数mで対峙した。
ポタっと血が零れ落ちる、小さな魔人の姿が少し傾いだ。
大きなライオンの姿をした魔人バルバスが寧猛に牙を剥くとふっと笑った。
ドスンっと大きな音を立てて巨体が地に倒れ伏した。
『ふう、変わり身の術、影縫いの三重行使、傀儡縛り、天翔殺、地獄堕とし。
五つの秘術を尽くして尚、拙者に傷を負わせるとは確かに強者よのう。バルバス殿、拙者は先を急ぐ故お主の屍を野晒にする不作法許されよ!』
馬面をほとんど隠せていない魔人サミジナが、速度を上げ己が主君の元へひた走る。その速度はとうに音速を超えていた。魔人バルバスに食い千切られ左手首から先は失っているが、出血はもうしていない。凄まじい速度で移動するサミジナが一瞬だけ防御を切ったので断熱圧縮で発生した高熱で瞬時に焼き切ったためである。
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そうれ苦しいか、痛いか?ああ、愉快だ。こ奴をいたぶるのは天にも昇る心地良さだ。
「さあ、命乞いをおし。私に許しを請い、私の奴隷になって忠誠を誓うと言うんだよ!ホムンクルスの出来損ないが、早くおし」
シャム猫が吼え、空中に浮かぶ鞭がホムンクルスの柔肌を切り刻んでいく。
苦痛に呻く、が、決して命乞いや許しを請う声は洩らさないホムンクルスの矜持がそうさせているのか?それとも、既に拷問と苦痛によって意識が朧なのか?
『こ、これは。惨い、何ということを我が主に対して無礼にもほどがあるぞシャム猫の分際で・・・・・・
くぅ、だが。この左手では満足に印は結べぬ。刺し違えても主君を救い出す覚悟はあるが、あのシャム猫・・・
ああ見えて確かに強い、先ほどのバルバスなど足元にも及ばぬほどに!』
漸く主君の元に帰り着いた魔人サミジナは覚悟を決めて、走り寄ろうとしたとき懐が何やら熱くなっているのに気付いた。
『こ、これは?』