「キールって、相手が弱いと途端に不器用っていうか。戦闘にキレが無くなるわね?!」
小さな獣の群れに攻め立てられ、対処に苦慮しているキールに向かって身も蓋も無く痛いところを突くリサであった。それもそのはず、リサが三十匹の鼠魔獣、犬魔獣を蹴散らす間にキールが仕留めたのはたったの一匹だったからだ。
「それ、影縫い《ジル・ムキッド》!、斬って斬って斬っちゃうよぅ」
さらに細長い針を器用に小さな獣の影に突き刺し動きを止めると、短剣で首を撥ねて始末していくリサ、スコアは遂に五十対一になった。
「ふう、お疲れキール。そう言えば、今回は報酬手に入れたんでしょうね?」
「うん?ちょっと確認してみるよ。
ありゃ・・・・・・」
「そう、駄目だったのか。まあ、今回の狩りじゃ私が稼いだからいいか。じゃーん、五十万霊子《レイス》よ。
今日は、奢っちゃおうかなあ?」
「くそっ、これから色々物入りだって言うのに一番の稼ぎになる魔獣狩りで稼げないのは痛いぜ」
『キール、しゃべっても良い?』
切り株に置いた美しい生首が尋ねた。
「ああ、いいぜ。ホムンクルス」
『そなたは仮想通貨、霊子について勘違いしておるのと違うか?』
「・・・・・・ と、言うと?」
『霊子とは、この世界の評価システムよ。
昔、異界からの客人の監修のもとに我が主偉大なる『ソローンの造り手』様があらゆる価値の交換をより簡易に、より正確に、そして税の徴取を行うシステムとして魔導の粋を集めて実現したシステムなの。
だから、例え異世界からやってきたとしてもこの世界に居る以上は霊子のシステムから逃れることは出来ないわ。
だからキール、あなたは受け入れるだけでいいのよ、霊子を・・・・・・』
「霊子が異界からの客人がもたらしたシステムだったなんて」
血の臭いに誘われたのか、数頭の狼魔獣がキールに襲い掛かる。
鋭い牙がキールの腕を、首を食い千切るかの幻視をリサは見た気がした。
血煙を上げて、引っ繰り返る狼魔獣たち、その骸は三体。
「お?六十万霊子、俺の口座に入金されたよ。ありがとう、ホムンクルス」
『なに、物語がこのようなところで頓挫するのは忍びないから。それにマスターの作ったシステムが不完全なままなんて見過ごすことは出来ないもの・・・・・・』
「ふっ、ようし。稼ぎまくるぜ、ある目的のために!」
「私も、負けないわよ!」
「ケーンの紹介か、若いの。
それで、このわしに作らせたいものがあると?」
「ああ、腕利きの鍛冶師であるあんたにしか任せられない仕事だ、ワフードさん」