そう言えば、この世界はどうなっているんだ。まあ銭儲けの女神が司ってるくらいだから俺との相性はピッタリだな。
ま、今の俺なら魔物に襲われても何とか出来るがな。
一00BSTを攻撃力に変えて、放つ俺のスキル。
「スピンターン!」
どさっ。
木の上から俺を狙っていた蛇型の魔物が落ちてきた。大人の背丈ほどの長さだったものが、闇に飲込まれ、俺の口座残高に一000BSTが加算された。
「ふう、大分慣れてきたのか。消費する金(BST)が少なくなってきたな。最初の頃は、使った金より魔物を倒した報酬の方が少なかったが今の戦闘では消費額より報酬が十倍も大きいし、攻撃に必要な金も感覚的にわかるようになった」
「ご主人、そろそろ帰ってご飯にしましょうよ。もう、夕方です。夜間戦闘は、危険を伴うので帰りましょ」
ペットのネコが焦れたように、帰宅を促す。確かに腹も空いてきたし戻ろうか。
浅黒い肌の男が、街を物珍しそうに眺めていた。
うん、なかなか良い街だ。この格好では、少し涼しすぎるがどこかの宿にでも泊まって暖かい物を食えば身体も温まるだろう。
それとも、人肌に包まれるの良いな。ならば、少し奥の方の裏通りでも流すとするか。
男は、独特の勘で娼館を探り当てると、やり手婆に心づけを渡して一番の器量良しを頼むと、案内された二階の部屋で軽く酒を飲みながら待つことにした。
「あんたかい?指名してくれたのは、でも記憶に無いわねぇ。前に会ったかい、旦那?」
赤い薄物を纏った、金髪の美しい女が尋ねた。
「いや、やり手婆にここ一番の美人を呼んでくれと頼んだだけだ。なるほど、いい女だ。気に入ったぜ」
「そう、なら前金で一0万霊子《レイス》を払って貰おうかしら。酒やつまみは私の奢りだよ、お世辞でもうれしいからさ」
男は、聞きなれない通貨の名前を訝しみながらも今までの流儀で、重そうな袋を差し出した。
「霊子?聞かない単位だなあ、これで足りるだろう。金貨で一00枚はある、その中から取ってくれ」
「金貨かい、面倒だね。ちょっと、ヒナギク来ておくれ。両替商に行って、金貨十一枚を霊子に換えてきておくれ。私は、お客さんの相手をしているから。これはお駄賃だ、お前の好きな焼肉串でも帰りに買ってきな」
美人娼婦は、ヒナギクに金貨を渡した後、右手を彼女の手に合わせて『アカウントオープン』と謎の言葉を唱えた。
ヒナギクと呼ばれたローティーンの少女は、頷くと階段を小走りに降りて行った。
「ふふ、未だに人見知りでねぇ。じゃあ、これは返すよ。あんたの金貨は良質そうだから多分一枚、一万霊子で両替できるだろうがこれに手数料が掛かるから。あの子が帰ってきたら残りは霊子で返すよ。こっちじゃ、金貨より断然霊子の方が使い易いからね」
「ふーん、南方の大陸から来たのかい。それじゃあ霊子とか知らない訳だ。まあ、こっちでも霊子が流行りだしたのはつい最近だけどね。こういう商売をやっていると、折角のお宝を貯めても、金貨なんかじゃ守れないからね。その点、霊子を始め仮想通貨はいいよ嵩張らないし、絶対盗めないからさ」