夕立の後、沈み始めた太陽が雲を赤く染める。
「わあ、すごい夕焼け」
斉藤さんが西の空を見て言う。
でも私はその夕焼けに背を向けて東の空を見ている。
「夕焼けきれいだよ。見ないの?」
「私、夕焼けのときは東の空が落ち着くんだ」
斉藤さんは黙って東の空を見て、そして私のとなりに並んで座った。
私たちの真上の空は青紫色、その下は薄い水色、そして目の高さの空は水色と灰色の中間の色。
「夕焼けの赤やオレンジや黄色は確かにきれいだけど、私にはちょっと刺激が強すぎてなんだか涙が出そうで苦手なんだ」
「ふーん。朝日も苦手なの?」
「…そういえば朝日は苦手じゃない。なんでだろう?」
朝日と夕焼けってそっくりなのに、なんでこんなに違うものに感じるんだろう?
「あ、もしかしたら白石さんが夕日が苦手なのは、夕日って過去にサヨナラする色だからなのかもしれないね」
「え?」
「だって地球って東に向かって回ってるんだから、その反対の夕日のある西の空はさよならする方角にあるってことでしょ?」
私はちょっと考えて、斉藤さんの言う通りかもしれないと思い、うなずく。
過去にサヨナラなんてさみしい。いつも覚えていたい。楽しい過去も悲しい過去も全部抱えたまま、私は行けるとこまで行くんだ。
斉藤さんを見る。斉藤さんは東の空を見ている。私も東の空をまた見る。
ふたりぶんの黒いシルエット。後ろには赤と紫と金色と群青で彩られた夕焼け空が広がっている。
つづく→https://alis.to/dorogamihikage/articles/azDElnyexp0p
以前のお話→https://alis.to/dorogamihikage/articles/3qQ6Dn4X7pwG
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