以前のお話→https://alis.to/dorogamihikage/articles/3qQ6Dn4X7pwG
BGM↓
線香花火が燃えて白石さんの顔を照らす。花火の音と煙のにおい。
わ、白石さんの線香花火が大きく揺れて私の線香花火にくっついた。ふつふつとした火の玉から勢いよく飛ぶ火花、激しく美しい。それがしだいに弱くなり穏やかに終わりを告げる、散り菊。火球は次第に小さくなり、そして消えた。
一束の線香花火はすぐに終わってしまった。
あと半分を切った夏休みもきっとあっという間に終わっちゃうのかもしれない。
「夏が終わったらさみしいね」
白石さんが私の思ってたことと同じことを言う。
「まだ、夏休み半分あるよ!しよ?楽しいこといっぱい」
「どんな?」
白石さんが首を傾けて私の顔を覗き込む。近い。体が熱くなる。
「田舎のおばあちゃんの家で畑でとれたモロコシ食べたり」
「おばあちゃんどこに住んでるの?」
「おばあちゃん今のマンションでいっしょに暮してた」
「・・・・・」
「ええと、自転車二人乗りして坂道ゆっくりゆっくり下ったりとか」
「二人乗りは交通違反」
「ええと、じゃあ夜のプール忍び込んで服着たまま飛び込んで、警備員に見つかって走って逃げたりとか?」
「だから悪いことはだめ」
「はい、ごめんなさい。じゃあ海に泳ぎに行って砂浜に二人の名前書いたり、波がそれを消したり、初めて見る白石さんのビキニ姿にどきどきしたりとか」
「私スクール水着しか持ってないよ」
「私もだった。じゃあ川は?BBQして、お肉いっぱい食べて、川でスイカ冷やしてスイカ割りしよーってなって目隠ししてどきどきしたり」
「え?」
「あの、あの、ええと、山は?山登りしてたら白石さんが足ケガして『しかたねえな』って言っておんぶしてどきどきしたりとか」
「私足ケガしないといけないの?」
「ううん!だめ、ケガしないで。じゃあ、二人の秘密の場所にタイムカプセル埋めて10年後の再会約束したりとか」
「二人の秘密の場所なんてあったっけ?」
「つくるの!これから。あ、そうだ、秘密基地作っていっしょに家出するとかは?」
「いいけど私夜は自分の家で寝るから君もちゃんと暗くなる前に帰りなよ」
「日帰りの家出じゃ家出じゃないよう。でも他にもしたいこといっぱいあるんだよ。無人島ツアーに行ったら私たちだけ取り残されて、雨降ってきて、廃墟みたいなとこに逃げ込んで、白石さんが『服着替えるからあっち向いてて』って言って衣擦れの音にどきどきしたりとか」
「なんか私にどきどきが多いような」
「・・・それでね!夜になったら雨が上がって一緒に満天の星空眺めて流れ星にお願いして、『何お願いしたの?』『ないしょ』って言ったりとか」
「星?今見えてるよ?」
「え?あ、確かに」
「ここ田舎だから遠く行かなくても星きれいだよね」
「・・・・白石さん、私と楽しいことしたくないの?」
「私は君といるだけですでに楽しいから、いっしょに楽しいことしたらすごくすごく楽しいって思うよきっと」
「じゃあ・・・」
「でもね、楽しければ楽しいほど終わった時って寂しいんだよね。この線香花火みたいにさ」
白石さんは燃えカスになった線香花火を拾い集めながらそうつぶやく。花火も、夏も、終わらなければいいのにね
「うん、終わりって寂しい」
「あ、そう言えばね、私、すごく小さいときに、消えない花火があったら終わった時の寂しい思いしなくてすむのになーって思ったことがあったんだ」
線香花火を握りしめたまま白石さんが言った。
「消えない花火?」
「うん、それでなぜかどこかに売ってるって思ってて花火売り場で『消えない花火どこだろー』って一所懸命探したことがあったんだ。そんなのあるはずないのにね。・・・その頃から消えて寂しい思いするの嫌だったんだろうな」
白石さんの笑顔、寂しそう。
「白石さん私、今日の花火のこと、忘れない」
「ん?」
「だってね、花火は一瞬で燃え尽きちゃうかもしれないど、私が今日の花火をずっと覚えてれば、私の中では今日の花火はずっと燃え続けるもの。一瞬だった花火が一瞬ではなくなるの。私の中の花火は消えないよ」
白石さんの今日の笑顔も忘れない。白石さんの目が私を見つめてる。長いまつ毛、瞬き二回。
「忘れないでいてくれるの?」
「うん、忘れないよ」
「消えない花火あったね」
「うん」
「私のことも忘れないでいてくれる?」
「え?」
「私、実はね、君に黙ってたことがあるの」
なんだろう?真剣な顔の白石さん、緊張する。
「私、本当は・・・、私」
私は黙って白石さんの言葉を待つ。
「私、・・・また転校するの」
「え!いつ?」
「まだわからない。二週間後かもしれないし、明日かもしれない。でも学校はもう行かないのは確か」
「そうなんだ。びっくりした。でもいつかまた会えるよね?」
びっくりはしたのだけれど、すごく落ち着いた声が出た。
「わからない。ちょっと遠いんだ」
「そか」
「君、さみしい?」
「ううん」
「え?」
「だって忘れないから。私は白石さんのこと絶対忘れない。そうすれば私の中に白石さんはずっといるでしょ?だからさみしくなんてないよ」
見つめ合う目と目。白石さんが深くうなづく。
「私も君のこと忘れないよ、一生忘れない、ずっと覚えてるよ」
花火の残り香、風がどこかに運び去ってしまう。けれど私たちの中からはずっとずっと消えない。
夜の道、池のほとり、かえるの声。
黒い水面に街灯の明かりが反射してところどころ黄色く光り、揺れる。
縦に並んで道を歩く私たち2人。
水の跳ねる音、かえるが一斉に鳴きやみ、風が吹く。
「あ、白石さん明日の花火大会は行ける?一緒に浴衣着ようよ。ね?」
「・・・うん」
「よかった」
「あ、これあげるよ」
白石さんがスカートのポケットから何か取り出して、私の手の平に乗せてくれた。
水色のマニキュア。白石さんが塗ってくれるって言ったのに。なんか悲しい。
いつもの交差点。白石さんにバイバイって手を振ったら、
「ありがとう、じゃあ、さよなら」
って答えてくれた。踏切を渡って振り返る。白石さんが笑顔で手を振った。私はその姿を心に焼き付けた。
花火大会、下駄の音、子供たちの楽しそうな笑い声。たくさんの人。
私は浴衣に水色のネイル。髪も上げて、少しだけお化粧もした。
けど、白石さんは来ない。きっと、きっともう会えないんだろうな。
私はなんとなく来ないのかもって感じてて少しだけ覚悟して来たんだけど、やっぱり悲しい。悲しくないなんて言ったけどやっぱり悲しいよう白石さん。
こんな悲しい思いをするなら最初から仲良くならないほうが良かったと思って胸がぎゅってして苦しい。だけど同時に私の中の白石さんの笑顔で胸がすぐったくて、それが心地よくもあって変な感じ。体が熱い。
そっか、この夏私はこんなに苦しくなれるくらい大切なものがつくれたんだ。それって幸せなことだよね。白石さん、白石さんはどう?
目の前が、ぱっと明るくなる。花火が上がった。花火の音、ずしんと体に響く。花火大会が始まりたくさんの打ち上げ花火が開いてるのに、なんだかよく見えない。
けど、まあいいか。私は私の中の花火を見るから。永遠に消えない花火が私の中にはあるから。
EDソングのようなもの↓
おわり
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「夏恋と嵐」
ひと夏の恋を描いた甘く切ない青春ラブコメなんだけど、主人公が根暗でぼっちで無差別殺人を計画しているという話
どこかで公開します!