小さな公園、蝉の声、風にかすかに揺れる百日草の茂み、水飲み場の近くの木陰のベンチ。
地面にできた木の影の中には小さな明るいところがいくつもあって、それが揺れている。木の影から鳥の影が飛び立ち、薄くなって消えた。
ベンチに私と白石さんが並んで座る。2人の手にはアイスクリームのカップ。
ふたの裏に付いてるアイスをスプーンで集めて食べるのが好きなんだけど、人前だと恥ずかしくてできない。全然気にしてないようなフリしてふたを捨てるけど、あーもったいない。
そう思ってふと白石さんを見たら、めっちゃふたの裏舐めてた。
目が合って、舌を出したまま一瞬止まる白石さん。なんか猫みたいだ。
ニコってして「ふたの裏のアイスおいしいよ」って言う。
私も舐めてみた。うん、おいしい。
つい人の目を気にしてしまう私は、そういうのを気にしないでいるような白石さんがうらやましい。先日街で白石さんに偶然会ったときのことを思い出す。
お父さんとお母さんが服を買ってくれると言うからいっしょに買い物に行ったんだけど、正直私はこの年齢で家族で買い物とか恥ずかしくて同級生に見られませんようにって願ってた。私のお父さんがかっこよかったり、お母さんが美人ならいいけど、ふつうのおじさんとおばさんだしね。
けど私の願いもむなしく白石さんに会ってしまった。白石さんは太っててハゲたおじさんと恋人同士みたいに腕を組んで歩いてきた。私に気づいた白石さんは堂々と
「斉藤さんどうもこんにちは」って言って、私のお父さんとお母さんにあいさつして、隣のおじさんを自分のお父さんだと紹介して、また腕を組んで颯爽と去って行った。
白石さんはお父さんとのお買い物の時間を心から楽しんでいるようだった。
私だって家族との買い物が嫌いなわけじゃない。小さな頃のように家族とのお買い物がとっても楽しかったときと同じとはいかないけれど、今でもやっぱり家族で買い物は少なからず楽しいと思ってる。
でもそれを楽しい時間でなくしてしまっているのは、どうでもいいことを恥ずかしいって感じる私自身なんじゃないかな。こういう普段だったら考えないようなことを白石さんといると考えてしまう。私も白石さんみたいに恥ずかしいとか気にしないようになりたいな。
そんなことを考えているうちに私はアイスを食べ終わっていた。白石さんはまだ半分くらい残ってる。白石さんは食べるのがゆっくり。それとも私が速いのか。
見てたら白石さんはしきりにアイスをスプーンでかき混ぜている。
「なんでそんなにかき混ぜてるの?」
「アイスってかき混ぜるとソフトクリームになるんだよ」
「え、そうなの?」
「うん、アイスクリームソフトクリームって言うんだ。おいしいんだよ。君、自分の全部食べちゃったの?ほら、私のひと口お食べ」
そう言って白石さんはアイスクリームソフトクリームをすくった自分のスプーンを私の顔の前に出してきた。
アーンしちゃうの?恥ずかしいよ白石さん。あ、恥ずかしいとか気にしないんだった。あれ、でもこれって間節キス。私の顔の前のこのスプーン、口で受け取ろうか、手で受け取ろうか。でもでもアーンしてきたスプーンを口じゃなく手で受け取ったら嫌な感じかな?あーもう、もじもじしてたらおかしいよね。うん、気にしない気にしない。間接キスとかぜーんぜん気にしない。
私は白石さんにアーンしてもらってアイスを食べた。なんだか耳が熱い。口の中のアイスクリームの冷たさが心地いい。
「んーーー!ソフトクリーム!」
白石さんは「ね!」と言って私が舐めたスプーンでまた自分のアイスをかき混ぜて、そのスプーンを口にもっていって、口に入れた。
白石さんと間接キス白石さんと間接キス白石さんと間節キスしちゃった!全然気にしてた私。やっぱり耳熱い。
白石さんと目が合う。耳赤くなってないかな。
「もっと食べたいの?もう、しょうがないなあ君は。あとひと口だけだよ」
白石さんがまたアーンしてくれて、私はそれを食べる。
白石さんが舐めたスプーンを私が舐めて、それをまた白石さんが舐めてもう一度私が舐めて、そして白石さんがそれをまた口に入れて・・・・。友達なんだからこのぐらいするよね!意識しすぎ。変だと思われちゃう。普通にしなきゃ。間接キスなんて気づかないふり気づかないふり。
すると白石さんが
「ねえ君、間接キス、しちゃったね」って言って照れたように笑った。ふと見たら白石さんの耳真っ赤だった。
つづく→https://alis.to/dorogamihikage/articles/365GvjAPWoZz
以前のお話→https://alis.to/dorogamihikage/articles/3qQ6Dn4X7pwG
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