映画『キングダム2 遥かなる大地へ』が2023年7月28日に『金曜ロードショー』で地上波初放送しました。中国戦国時代の秦を描いた原泰久の漫画『キングダム』の実写映画二作目です。『遥かなる大地へ』は蛇甘平原の戦いを描きます。単行本の第6巻と第7巻に相当します。
魏が秦に攻めてきます。世界史知識では秦は圧倒的強国でしたが、『キングダム』の世界の秦は魏を恐れています。秦王政が中華を統一し、始皇帝になることが歴史ですが、『キングダム』では他国も強力であり、中華統一は長いです。
主人公の信は秦軍の一兵卒として戦います。これが信の初陣です。歩兵は五人一組の伍というチームで戦います。信の所属する伍長は弱そうですが、五人一組で行動する弱者なりの戦い方をしてきました。信と同じ伍のキョウカイは不思議な剣士です。キョウカイの呼吸が日本に伝わって『鬼滅の刃』の全集中の呼吸になるのでしょうか。
原作の歩兵達は、戦争前はチンピラのようにマウンティングしていました。ところが、魏軍の戦車攻撃という危機の前には協力し合いました。これは少し非現実的に感じました。それほど人間は思い通りに動くものではありません。ゲームの理論では合理性があっても人は協力しないものです。映画ではマウンティングを描かないため、不自然さを感じませんでした。
信は旧日本軍的パワハラ体質の危ない千人将・縛虎申に配属されます。このような武将は軍師の軍略によってあっさりと滅ぼされる展開がお決まりのパターンです。ところが、縛虎申が感動させる展開になります。旧日本軍のような特攻の強要で兵士を死なせておきながら、「死んだ仲間」を熱く語る資格があるでしょうか。ビッグモーターのブラック企業体質が批判されている今の時期に評価されるでしょうか。
秦軍の司令官のヒョウ公将軍は本能のままに戦う本能型武将です。歩兵が魏の戦車隊に蹂躙されている時も騎馬隊を待機させ温存しました。漫画では縛虎申と相まって秦軍幹部は精神論根性論で無駄に兵を特攻で失わせる無能と絶望的な気持ちになりました。ヒョウ公将軍の台詞「待機じゃ」は原作漫画からは破天荒なイメージを抱きましたが、映画では力がなく、保身第一の無能公務員体質にも見え、絶望的な感覚を強めました。
魏と秦の将軍が一騎打ちします。これはあっけなく終わります。バトル・アクションを期待する向きには肩透かしになりますが、戦いのリアルがあります。一騎討ちは長々するものではないです。
漫画では侵略した秦への怒りが丁寧に描写されていました。侵略者への怒りは大いに共感します。入れ墨にも悲しい過去がありました。現代日本のヤンキーのようにファッションで入れ墨するような浅ましさではありません。この点は映画では伝わりません。
実は魏の方は将軍が一騎打ちをする必要はありませんでした。兵力は上回っており、慌てることはありませんでした。本能と知略の戦いと形容されましたが、一騎打ちをせず、知略の戦いに徹した方が勝てたかもしれません。しかし、それでは読者に思いが伝わりません。不気味な敵の将軍の印象で終わってしまいます。漫画では命を懸ける行動で自分の思いを吐露しました。
『キングダム』の政は戦乱のない世を目指すために中華を統一しようとします。これは他の国からすれば侵略です。漫画では敵国側も丁寧に描写されており、読者には敵国に感情移入する選択肢があります。それに比べると映画は主人公サイドで固定して観るエンターテイメントになっています。
『リトル・マーメイド』不利益事実を隠してだます取引
興行収入1位の『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』と『千と千尋の神隠し』