東京に来て1年が過ぎた頃、私は大学生活を送った広島県尾道市を訪ねていた。
帰省の一環ではあったが、呼び寄せられたかのように、気づいたら尾道駅に立っていた。
リニューアルされた尾道駅は、観光客でごった返していて。
私の知らない尾道を見せつけられたようで、少し寂しさを覚える。
そっか。私にとって特別なだけで、尾道にとって私は特別じゃない。
変わりゆく街の現実に背を向け、千光寺に向かう坂を上る。
『観光客が通らない坂を通る』のが私のお決まり。
いつだってどこかで、『特別な尾道』を感じていたいから。
千光寺から尾道の街を眺めたとき、自分の頬を伝う涙に気付いた。
『変わらなくても良い』
私を育ててくれた街が、そう伝えてくれているようだった。
街の随所に、青春が詰まっている。
思いっきり駆け抜けた、かけがえのない時間。
変わることが全てではない。
変わらない中に、私というものがきっとある。
尾道が私に教えてくれたこと。