フィンテックの代表的な取り組みのなかでも、金融分野へのブロックチェーンの活用は世界中の多くの企業が多様なシステム・サービスの開発にしのぎを削っていますね。
なかでも、国際送金をめぐるシステムの構築にブロックチェーンなどの技術を活用し、従来のシステムをアップデートしていく取り組みは多様に展開されています。
中華圏でも、香港の決済システム「AlipayHK」を運営するアリババグループの「Ant Financial(蚂蚁金服)」がフィリピンの「Gcash」と提携して、ブロックチェーンを活用した国際送金を実現したというニュースが報じられるなど、大手企業を含めた多くの企業が関連技術の開発を進めているようです。
今回は、こうした分野での技術開発をいち早く進めてきた香港の企業の取り組みがニュースとして報じられていましたので、少し書き留めておきたいと思います。
・「テクノロジーマグル」が始めたBitspark?
・Bitsparkが開発したサービスって?
・ブロックチェーンで「魔法」を実現?
台湾の経済紙「經濟日報」のニュースサイトは2019年2月14日に、「ブロックチェーンによる国際送金を極め、テクノロジーマグルは新進気鋭の技術者となった(深耕區塊鏈跨境轉帳 科技麻瓜變新貴)」という記事を掲載しました。
記事のタイトル、特に後半に不思議な単語が並んでいますけれど、「マグル(麻瓜)」というのは、ハリーポッターシリーズに登場する「魔法を使えない人間」のことを指す呼称ですね。
また、「新貴」というのは、経済成長の時流に乗って形成されたいわゆる「新富裕層」のことを指しますが、一定の分野で急成長した人のことも「新貴」と呼ぶようです。
この不思議なタイトルは、記事で取り上げられている香港のBitsparkという企業の創業者でCOO(營運長)でもあるMaxine Ryanさんの、以下のエピソードに由来しているようです。
26歳のライアン(Maxine Ryan)はBitsparkの共同創業者でありCOOであるけれども、彼女は決してみんなが想像するような典型的なブロックチェーン信奉者ではない。ライアンは正直なところ、5年前には「テクノロジーマグル」であったといい、ブロックチェーン送金システムについてはまったくわかっておらず、正規の訓練を受けたこともなく、暗号通貨に対して半信半疑の態度を採っていた。
(26歲的萊恩(Maxine Ryan)身兼Bitspark聯合創辦人與營運長,但她可不是大家眼中的典型區塊鏈愛好者。萊恩坦言五年前她還是個「科技麻瓜」,對區塊鏈數位轉帳系統一竅不通也從未受過正規訓練,並對加密貨幣持半信半疑的態度。)
Bitsparkの創業は2014年ということですので、創業者のひとりである人物の、ブロックチェーンに対する創業当初の思いや姿勢というものが、いわばまったくの「素人」として始まったということを、この記事タイトルは示しているんですね。
この記事では、「テクノロジーマグル」がいかに新進気鋭の技術者として成長していくかということがBitsparkの事業展開とともに描かれているわけですが、Bitsparkの事業については、以下のようにまとめられています。
2014年に香港で創設されたBitsparkは世界で最初のブロックチェーンを通じた国際送金のプラットフォームで、Bitsparkは比較的安い手数料とシンプルな操作によるサービスで多くのユーザーの注目を浴びるようになってきている。サービス拠点はヨーロッパとアジアの7か国に及び、特に海外で働く出稼ぎ労働者がもっとも大きな恩恵を受けている。
(2014年在香港創立的Bitspark是全球頭一個透過區塊鏈跨境匯款的平台,Bitspark以相對便宜的手續費及簡單好操作的服務逐漸受到大批用戶青睞,服務據點迅速橫跨歐亞七個國家,其中外國勞工成為最大受惠族群。)
Bitsparkの公式ウェブサイトには、トップページに「World's First Bankless Money Transfer Ecosystem」というフレーズが掲げられています。
また、事業内容について、以下のような概説も付されています。
Bitsparkはビジネスと人々がアジア・アフリカ間で仮想通貨の入出金を可能にする、銀行を必要としない送金エコシステムです。
(Bitspark is a bankless money transfer ecosystem that enables businesses and people to cash in and cash out cryptocurrencies across Asia and Africa.)
「Bankless」という単語が繰り返し出てきているように、銀行に口座を持たない人々も簡単に送金を行うことができるようなサービスを開発・提供していることがうかがえますね。
NAOTTAさんの記事にも触れられていますように、世界中には銀行サービスに接続していない「アンバンクド」と呼ばれる人々が多く存在しています。
地域的にはアジアやアフリカに多く存在するこうした人々、とりわけ、「經濟日報」の記事でも触れられているような「海外で働く出稼ぎ労働者(外國勞工)」にとって、銀行サービスを使わなくても送金できるサービスは、利便性が高いものだと思われます。
「經濟日報」の記事によれば、「香港、マレーシア、ガーナ、ナイジェリア、フィリピン、インドネシア、ベトナム、パキスタン(香港、馬來西亞、迦納、奈及利亞、菲律賓、印尼、越南及巴基斯坦)」でサービスが展開されているということです。
Bitsparkの公式サイトによれば、具体的な国際送金の流れとしては…
①香港にあるBitsparkのポイントで入金
②プラットフォーム内で各種法定通貨や仮想通貨に交換
③現地の提携銀行や両替所などから出金
となっています。
この流れを見る限り、今のところは香港から外国への送金のみに限られているようです。
現状、法定通貨へと出金する場合に既存の金融機関を利用せざるを得ない形になっているというところが課題かもしれません。
また、Bitsparkが提供するプラットフォームではトレーダーや投資家を取り込むことも意識して、仮想通貨も取り扱われています。
こうした複合的な金融プラットフォームを構築することによって、国際送金の部分だけではなく総合的にオルタナティブな金融機関としての役割を果たそうとしていることがうかがえますね。
Bitsparkのシステムでは銀行口座が無くても国際送金ができることに加えて、送金手数料も取引額の1%に抑えるなど、従来の銀行システムの外にいる人々に大きなメリットのあるシステムであるようです。
「經濟日報」の記事中、BitsparkのCOOであるライアンさんは、「外国で働く出稼ぎ労働者からすれば、Bitsparkは魔法のようで、彼らとの信頼関係を作ることは非常に重要です(對外國工人來說,Bitspark就像魔法,和他們建立信心相當重要)」と語ったそうです。
このコメントには、従来の金融システムの外にいた人々の声が反映されているとともに、そのフィールドに大きなビジネスチャンスが存在していることが示唆されています。
サービス範囲の拡大や出金ポイントにおける既存の金融機関への依存、そうした伝統的な金融システムとの関係性や安定的な送金システムの維持など、解決すべき課題はいろいろと考えられるかと思います。
ただ、すでに2014年から技術開発を進め、国際送金サービスをすでに提供しているということは大きな強みだろうと思います。
また、単なる国際送金サービスの提供ということにとどまらず、トレーダーや投資家も引き込みながら、プラットフォームの役割拡大と価値向上を進めている点も好感されます。
これからの事業展開がどうなっていくか…国際的な送金システムをめぐる動向と合わせて、コツコツと情報を追いかけていきたいと思います!