(香港のスターフェリー、出航!)
ブロックチェーンに関する技術やサービスの開発は、世界各地で激しい競争が展開されていると同時に、さまざまな提携の動きも進んでいますね。
たとえば、日本のSBIグループも加入している「R3コンソーシアム」は国際的な金融機関コンソーシアムとして有名ですし、企業間の提携も盛んにおこなわれています。
(R3コンソーシアムについては、以下の記事で少し触れています)
今回は、台湾・香港・中国を含む中華圏で、ブロックチェーンを介した提携の動きが同時多発的に展開されている情報が目に留まりましたので、少し書き留めておきたいと思います。
・広州・香港・マカオがブロックチェーンで提携⁉︎
・海運業界ではブロックチェーンネットワークが提携⁉︎
・提携でブロックチェーンの社会実装が進む?
香港の大手紙「文匯報」のニュースサイトである「文匯網」が2018年11月9日に報じた記事によると、「広州市ブロックチェーン産業協会(广州市区块链产业协会)」、「香港ブロックチェーン産業協会(香港區塊鏈產業協會)」、「マカオ大学イノベーションセンター(澳門大學創新中心)」による「粵港澳大灣區區塊鏈聯盟(Guangdong-Hongkong-Macao Greater Bay Area Blockchain Alliance)」が成立したということです。
提携の目的については、以下のように説明されているようです。
「内地に技術なく、香港・マカオにシーンなし」というブロックチェーン産業発展の難問を打破することに尽力し、ブロックチェーンの協力プラットフォームや交流メカニズムを構築し、三か所の人材と知識の共有と流動化を推進し、イノベーションを形成し、広東・香港・マカオの大湾区の「ブロックチェーン×実体経済」のイノベーション融合方式の発展を推し進め、中国国内のブロックチェーン技術産業課の空白を埋める。
(將致力於打破「內地缺技術、港澳缺場景」的區塊鏈產業發展困局,建立區塊鏈合作平台和交流機制,推動三地人才和知識的共享與流動,形成創新合力,推動粵港澳大灣區「區塊鏈+實體經濟」創新融合式發展,填補國內區塊鏈技術產業化的空白。)
中国・香港・マカオといった地域のブロックチェーンをめぐる「技術」と「市場」の有効活用を、この提携によって実現していこうという方向性がうかがえますね。
「大湾区」については以下の記事で少し触れましたが、中国政府が香港やマカオとワンセットで打ち出している一大経済圏です。
記事によれば、創設当初のアライアンスメンバーは54社で、技術開発やファンド、インキュベーターや人材養成など、多様なブロックチェーン関連企業が加入しているということです。
「粵港澳大湾区」という経済圏のイメージが先行している印象はありますが、そのイメージがこうした取り組みによって内実を与えられると同時に、ブロックチェーンと「実体経済」との結合が目指されていることに期待が高まっているのかなと感じます。
他方、台湾の経済紙である「工商時報」が2018年11月13日に報じた記事によると、台湾の著名な海運業者である「陽明海運」や「長榮海運」をはじめとする国際的な海運業者9社によって、「グローバル海運ビジネスネットワーク(全球航運商務網絡、Global Shipping Business Network、GSBN)」が11月6日に結成されたそうです。
今回のネットワーク結成によって、以下のような目的を果たしていくことがイメージされているようです。
オープンデジタルプラットフォームの形で現れるブロックチェーン技術を使い、徐々にブロックチェーンの活用を進めていく。また、他の産業とブロックチェーンで連結し、今年12月にはまず危険品貨物文書のデジタル的情報交換を推進する。
(運用區塊鏈技術,以開放式數位平台的形態呈現,逐步推廣區塊鏈運用,並與其他產業區塊鏈連結,預計今年12月先推出危險品貨物文檔的數位化資訊交換。)
今回のネットワークメンバーの一社として名前が挙がっている陽明海運については以下の記事に書き留めましたが、ブロックチェーン導入に積極的な台湾の「中國信託商業銀行」などと提携し、貿易業務へのブロックチェーン活用を進めています。
海運業における国際貿易業務の多くが紙ベースでおこなわれているという現状のなかで、新たな技術であるブロックチェーンに対する期待は大きいようです。
ブロックチェーンの技術開発・運用については、記事にはソフトウェアソリューションを開発している「CargoSmart Limited」という企業が担当しているようです。
CargoSmart Limitedは公式ウェブサイトによれば、以下のような事業を展開していると説明されています。
2000年に発足し、香港に本部を置くCargoSmartは、ワールドワイドな16万人以上のプロが配送の信頼性を高め、輸送コストを削減し、運営を合理化することを支援する。
(Founded in 2000 and headquartered in Hong Kong, CargoSmart has helped over 160,000 professionals worldwide increase delivery reliability, lower transportation costs, and streamline operations.)
貿易・輸送業に特化したソリューション開発を中心的な事業としている企業であることがうかがえますね。
CargoSmart Limitedが発信したプレスリリースによれば、今回のネットワークに加入したのは以下の9社だということです。(カッコ内は補足です)
CMA CGM(フランス、達飛)
COSCO SHIPPING Lines Co., Ltd.(中国、中遠海運集装箱運輸)
DP World(ドバイ、Dubai Ports World)
Evergreen Marine Corporation(台湾、長榮海運)
Hutchison Ports(香港、和記港口集團)
Orient Overseas Container Line Ltd.(香港、東方海外貨櫃航運)
PSA International Pte Ltd(シンガポール、PSA國際港務集團)
Shanghai International Port (Group) Co., Ltd.(中国、上海國際港務集團)
Yang Ming Marine Transport Corporation(台湾、陽明海運)
中華圏だけではなくドバイやフランスの企業が入っていると同時に、海運業者だけではなく港湾管理会社が複数加入していることが注目されます。
貿易業務の全体的な効率化を、ブロックチェーン上に構築されたプラットフォームにおいて実現していこうという姿勢が、こうしたメンバー構成からもうかがえますね。
今回取り上げた提携の動きは業界も分野も異なるものですが、ブロックチェーンを介した地域間あるいは企業間の提携という点で共通しています。
また、広東・香港・マカオの提携の動きは「粵港澳大湾区」という経済圏のなかに位置づくものとして、大きな社会的背景を持つものと位置づけることができますし、海運業における提携の動きは、中華圏の企業を中心に国際的な広がりを持つものとして、大きな動きにつながっていく可能性があるのかも…と感じます。
各企業や各地域でのブロックチェーン開発・導入の動きが新技術の社会実装において果たす役割の大きいことはもちろん、こうした各種の提携から広がっていく可能性もまた無視することはできないだろうと感じます。
こうした「合従連衡」の動きはなかなか複雑、かつ様々なところで起こっているので、情報を追いかけるのはなかなか大変ですが…コツコツと追いかけていきたいと思います!