ブロックチェーンに関する産業育成のために、行政が「特区」を作る形で場所と機会を提供する事例が世界各国でおこなわれているようですね。
台湾でも北部の新北市が「區塊鏈實驗特區(ブロックチェーン実験特区)」を設置する計画を打ち出しています。
ブロックチェーン産業の育成を国家レベルで進めている中国でも、「特区」形成の動きが現れてきているようですので、少し書き留めておきたいと思います。
・海南島に「ブロックチェーン実験区」を開設⁉︎
・海南島はリゾート地からの脱皮を図っている⁉︎
・ICTで世界をつなぐ新たな交流拠点として…
中国の「人民网」が設立した投資セクションである「人民创投(people capital)」が2018年10月8日に掲載した記事によると、中国の海南省に「海南自贸区(港)区块链试验区(海南自由貿易区(港)ブロックチェーン実験区)」が設立されたそうです。
実験区設置を発表した「海南省工业信息化厅(Hainan provincial industry and Information Technology Department)」のリーダー(厅长)である王静さんによれば、今回の取り組みを以下のように説明しています。
近年来引起关注的区块链技术将是一项对于未来产生重大影响的新兴技术。海南正积极发展新一代的信息技术产业和数字经济,推动互联网、物联网、大数据、卫星导航、人工智能、区块链和市场经济的深度融合,整体提升海南的综合竞争力,争取在形成以服务型经济为主的产业结构方面发挥示范引领作用。
(近年、注目を集めているブロックチェーン技術は未来に大きな影響を与える新技術である。海南島は次世代のICT産業とデジタルエコノミーを積極的に発展させ、インターネット、IoT、ビッグデータ、衛星ナビゲーション、AI、ブロックチェーンと市場経済との深い融合を推進し、海南島の総合的な競争力を総体として向上させ、サービス型経済を中心に産業構造の面でモデルケースとなることを目指す)
海南島が全体的に進めているICT産業・デジタルエコノミーの発展に位置づく取り組みのひとつとして、今回の実験区開設があることがわかりますね。
また、台湾の経済紙「工商時報」の記事によれば、今回の実験区開設にあわせて、実験区が置かれた「海南生态软件园(Hainan Resort Software Community、RSC)」が、以下の2つの施設を開設したということです。
オックスフォード大学ブロックチェーンリサーチセンターと「牛津海南區塊鏈研究院(オックスフォード海南ブロックチェーン研究所)」
中国人民大学大数据区块链与监管科技实验室(中国人民大学ビッグデータ・ブロックチェーン・レッグテック実験室)と「區塊鏈制度創新中心(ブロックチェーン制度イノベーションセンター)」
「特区」の開設と拠点の設置が同時並行でおこなわれている様子に、海南島の積極的な姿勢がうかがえますね。
海南島といえば「中国のハワイ」と呼ばれるように、リゾート地として有名な場所で、僕自身が以前、旅行会社に務めていたときには、海南島の中心都市である三亜へのゴルフツアーが定番でした。
ただ、近年はリゾート産業の発展を維持しつつ、ICT産業の誘致を強く推進しているようです。
基本的な方針は、海南省政府が出している「海南省总体规划(2015-2030)」(海南省全体計画)によれば、「生态、经济特区、国际旅游岛(リゾート、経済特区、国際リゾート)」というメリットを活かし、「一带一路、消费时代、创新发展(一帯一路、消費時代、イノベーション)」というタイミングを捉えた発展計画を立てるとしています。
今回、ブロックチェーン実験区が設置された「海南生态软件园」は、公式ウェブサイトによれば企業誘致を進める拠点として、2009年10月に正式オープンしたエリアのようです。
正式オープンから2018年8月までに、騰訊(Tencent)や華為(Huawei)などの中国企業を中心に3,244の企業が入居しているということですから、一大イノベーションセンターになっているようですね。
また、ここを拠点に多くのプロジェクトが進んでいるようで、たとえば2018年9月には「海峽兩岸(海南)科技文創產業基地(海峡両岸テックイノベーション産業基地)」が開設され、台湾から30の企業が入居したことを、台湾の大衆紙「旺報」が伝えています。
また、「人民网」が2018年9月30日に報じた記事によれば、中国発の仮想通貨取引所として世界的に有名な「火币(Huobi)」の中国本部が正式に海南生态软件园に入居したそうです。
具体的には、「火幣研究院、火幣大學(中國)、火幣Labs(中國)、火幣英才、火幣律林五大事業部(Huobi研究所、Huobi大学、HuobiLabs、HuobiElite、Huobi法律事務所といった五大事業部)」の拠点とすることで、「ブロックチェーン×産業サービスのワンストッププラットフォーム」をここに構築することを明らかにしたということです。
行政の強力なバックアップのもと、多くの企業や教育機関が誘致されることで、ICT産業の新たな拠点が急速に形成されていることが伝わってきますね。
海南島は地図を見てもらえればわかりますが、東南アジアと非常に近く、地理的には中国の「窓」として歴史的に発展してきた香港よりも、こうした地域との接点が持ちやすい場所にあります。
こうした背景もあり、長年、リゾート地として発展してきた島が、あらためてICTで世界につながる新たな「窓」としての役割を担おうとしていることがわかります。
とりわけ、今回取り上げたニュースは、中国におけるIoT、AI、ブロックチェーン産業の発展を背景に、こうした先端技術の中継地としての環境が、これからより一層整備されていくのかなということを感じさせる動きかなと感じました。
中国はもちろん、東南アジア市場は先端技術の普及がこれから見込まれる地域として注目されていますから、ますます海南島が果たすべき役割は大きくなっていくかもしれません。
地域的な動向にもできる限り注意を払いながら、コツコツと動向を追い続けていきたいと思います!