前回書いた記事で、「TWDT」というトークンが台湾元と1:1を維持する形で価値を担保しているということを書きました。
この記事にMALISさんからコメントをいただき、法定通貨と1:1を維持する仮想通貨を使うメリットは何か?ということについてご質問いただきました。
(MALISさん、ありがとうございます!)
この質問に答えられるだけの知識がなく恥ずかしい限りなのですが、法定通貨と1:1の関係を維持している他の事例を見ながら、少し知見を広げていこうと思いました。
そこで少しいろいろ調べていると、台湾元と1:1の価値を維持するトークンとして「珈琲幣」というものが発行されているという記事に行き当たりました。
…と思って記事を書きはじめてみると、台湾でのICO事情に寄せた内容になってしまいました。
(MALISさん、ごめんなさい!)
法定通貨との1:1関係の仮想通貨ということについては少しだけ触れつつ、記事を書き進めてみたいと思います。
(文中の日本語訳はざっくりとした粗訳です。参考までにご覧ください(^_^;)
・コーヒー屋さんのICO?
・ICOで何を実現するのか?
・健全なICO市場が広がるか?
台湾のコーヒー屋さん「沃田珈琲」がICOを実施したのは、2017年12月のことです。
台湾のテック系ニュースサイト「INSIDE」が2017年12月11日に掲載した記事によると、イーサリアムベースのトークン「珈琲幣」を2,100万枚発行する予定だと伝えています。
このICOが注目されたのは「台灣首次實體商品 ICO」、つまり、台湾で初めての、オフラインで商品を販売している企業によるICOということに起因しているようです。
実は、この事例については以前、僕も少し書き留めたのですが、この時は情報が追いきれなかったので、少し詳細を書くのをためらったんですよね…
ただ、今回改めていろいろ情報を探ってみると、ちゃんと事業展開をしているようですし、やっぱり興味深い事例だなと感じたので、少し詳細を書き留めてみたいと思いました。
ちなみに、台湾のニュースサイト「ETToday新聞雲」の記事によれば、珈琲幣と台湾元を1:1比率を維持するために、イーサリアムのスマートコントラクトを利用し、台湾元とアメリカドル、アメリカドルとイーサリアムの相場をリアルタイムに反映させているそうです。
珈琲幣と台湾元の1:1比率を実現するためにアメリカドルが基軸通貨になっていることが注目されますね。
表向きは台湾元によるトークンの安定性を担保する形で台湾の人々からの信用を獲得し、そうした形を確保するために、更なる安定通貨であるアメリカドルを挟む…ということでしょうか。
ちなみに、公式ウェブサイトでトークンを購入しようとしてみると、2018年8月2日午前2時(日本時間)現在の珈琲幣の価格は1ETH=16,033珈琲幣となっています。
今のイーサリアムの相場だと1珈琲幣=約3日本円といったところでしょうか(ちなみに1台湾元=3.6日本円程度です)
上に挙げた「INSIDE」の記事では、「沃田珈琲」オーナーの周詠珵さんがICOをする意味について、
という3点を挙げています。
①については、沃田珈琲が出しているホワイトペーパーにも「去中間化(脱中間化)」という形で書かれていますが、店舗と消費者が決済の面でもシームレスにつながることで、消費者に直接、利益をキャッシュバックできるとしています。
具体的には、6,000珈琲幣の購入以降、購入額によって5%から30%のキャッシュバックを受けることができると書かれています。
また、周詠珵さんは「INSIDE」の記事で、「沃田的理念就是想讓消費者用最簡單、最便利的方法,品嘗到最新鮮、最多元的咖啡豆。(沃田の理念は消費者にもっともシンプルに、もっとも便利な方法で、もっとも新鮮でもっとも多彩なコーヒー豆を味わってもらいたいということです)」と語っています。
直接的なキャッシュバックに加えて、提供する商品の品質も上げることで、より消費者の満足度を上げることができると考えられているようですね。
②については、2017年12月の時点で、台湾には先例となるICOの事例がなかったために、自らがその先例となって、そのほかのスタートアップや一般の人々にICOがどのように動いていくものなのかを示すと書かれています。
この点については、2018年7月10日に「LimitlessIQ.com」という台湾のネットメディアに掲載された周詠珵さんのインタビュー記事には、以下のコメントが掲載されています。
目前台灣雖然沒有明確的 ICO 規範,但沃田實業已在徵詢律師意見後,盡可能以符合台灣現行法規的方式發起 ICO。
(目下のところ、台湾にははっきりとしたICOのルールが存在しないけれども、沃田実業は弁護士の意見を徴してから、出来る限り台湾の現行法に符合する形でICOをおこなった)
僕もこれまで記事に書いてきましたが、台湾では2018年に入ってから行政や立法の動きが盛んに展開されています。
そうした動きに先んじる形で行動を始めていたことがうかがえますね。
最後の③については、「INSIDE」の記事には「全自動手沖咖啡機械手臂(全自動自家抽出コーヒーマシンアーム!)」の開発を次の目標にしていて、そのための1ステップが今回のICOだと語られています。
この点、「LimitlessIQ.com」の記事には、モーションキャプチャーを利用して周詠珵さんがコーヒーを入れる様子が動画として掲載されています。
「我認為寫程式太繁雜了,使用 Motion Capture 做一次動作就能複製了,這樣不是更容易嗎?(プログラム書くのは複雑だから、モーションキャプチャーを使って動きをコビーすることができれば簡単なんじゃない?)」という周詠珵さんのフランクなコメントが掲載されていますが、このプロジェクトには力を尽くしているようです。
周詠珵さんの目標は、世界中のすべての人々が著名なバリスタが淹れた自家製コーヒーを簡単に飲むことができるようにする…ということのようですので、これは本気かも?と感じました。
「沃田珈琲」の事例は台湾におけるICO、なかでもリアルな商品を販売するお店が実施したICOとして注目を集めました。
ICO実施以降の状況については具体的にはまだ公表されていませんが、公式Facebookページに事業の状況がポツポツと更新されている様子をみれば、コツコツと事業展開しているのかなという雰囲気は伝わってきます。
台湾のICOでは、以下の記事に書きました、台湾の大手取引所「BitoEX」が実施したICOがネームバリューも資金調達額も大きかったために注目を集めました。
ただ、こうしたいわゆる「派手な動き」よりも、「沃田珈琲」のような地道な動きがどうなるか、こうした動きが着々と積み重なっていくことのほうが、社会のなかにICOが普及していくかどうかということの試金石になるのではないかなと感じます。
法的な整備についても、たとえば以下の記事に書きましたように、着々とその方向性が議論されていますから、ICOを実施する環境は少しずつ整えられようとしています。
そうした状況のもとで、ICOの「ファーストペンギン」としての「沃田珈琲」の事業が成功するかどうかは、これからの台湾におけるICOの方向性に影響を与えるのではないか・と思います。
僕は体質的にコーヒーが飲めないので直接応援することは叶いませんが…せめて、これからの動向を追いかけていきたいと思います!
kazの記事一覧はこちらです。(下のアイコンからもご覧いただけます)
Twitter、やってます!