わたしの記憶が正しければ、居酒屋チェーンの象徴的存在である「和民」が一号店を渋谷区に出店したのは1992年であった。同じ年に大学へ進学したわたしは、必ずしもアルコールに強い体質ではないものの、合コンや合コンで「和民」のお世話になる機会がそれなりに多かったことを覚えている(当時は確か20歳未満の飲酒が認められていた・・・嘘)。アナリストになって渡邉美樹さんと対峙したのが2000年の前半。「和民」以外に農業や介護にも業容を広げ、高杉良の小説『青年社長』のモデルにもなるなど、まさに我が世の春を渡邊さんが謳歌していた時代だ。そして、ワタミが変調したのは2014年頃か、当時の売上高はピークで1,600億円を超えたが、直近では950億円まで落ち込んでいる。栄枯盛衰、いや盛者必衰だ。
ワタミの転落を横目に上場したのが鳥貴族である。名前の通り焼き鳥を全面に押し出し、居酒屋チェーン店では唯一、食材はすべて国産にこだわり、にも関わらずメニュー全品298円の低価格を売りにすることで差別化を図った。社長の息子が関ジャニの大倉忠義であることも話題となり、2014年に上場してから3〜4年はイケイケの状態が続いたとみられる。
だが、鳥貴族はすでに「宴のあと」かもしれない。2019年7月期の業績は売上高358億円(前期比6%増)、営業利益12億円(同29%減)。営業利益は当初計画17億円から一転して減益となった。新店効果で売上高は増収となったが、既存店ベースで前年を上回る月が一度もなかったのは深刻だ。赤字店舗の減損計上で最終損益は赤字に転落した。
気になるのは、業績改善に向けた打ち手に新味がないことである。既存店売上高を回復させる取り組みとして、「商品のこだわり」と「店内体験の魅力」を強化するとしていた。「体験」のキーワードに興味をそそられるが、「マニュアルから脱した接客でお客さまに楽しんでいただく」みたいな社長の回答に脱力する。いっそのこと、お客さんに焼き鳥を焼かせたらいいのではないか。「鳥貴族」の黄色いエプロンを着けてもらい、インスタ映えする背景を用意したうえで、自分で焼いた焼き鳥をくわえながら撮影しSNSに投稿してもらう。それこそ体験型の居酒屋として注目を集めるのではないかと思う。あるいは、婚活サイトと提携して、「お見合い焼き鳥パーティー」を企画するのもありだ。焼き鳥を焼く姿にその人となりが表れてパートナーを選ぶ判断材料になるし、鳥貴族にとっては平日夜の開催にすれば客数の確保に繋げることもできる。
あくまで焼鳥屋の業態にこだわりながら、基本理念として「永遠の会社」を掲げるのであれば、さらに極端な競争戦略を描く必要もあるだろう。社長のインタビューでは大倉忠義の話題はNGらしいが、はっきり言ってなんのこだわりかよくわからない。むしろ、アイドル息子の存在を使い倒すべきではないのか。あるいは、せっかく「鳥貴族」なのだから、貴族の格好をしたお客さんしか来店を認めない日を作ってもいい。または、「貴族のお漫才」で一世を風靡した髭男爵の山田ルイ53世を店のアイコンに起用してもいいだろう。
変わらないために変わり続ける。どうか鳥貴族には盛者必衰の例外となってほしい。