1月23日、日本電産が第3四半期(10-12月期)の決算説明会を開いた。永守会長は相も変わらず意気軒昂。短期的に業績の底入れを感じていることに加えて、長期的に電気自動車(EV)用モータの需要拡大へ自信も深めている。鋭い舌鋒の矛先が、アナリストではなく、今回は新聞記者へ向けられことも印象深い。EV用モータの量産体制の強化と、マネジメント層の拡充が当面の課題と思われるが、そこは誰よりも日本電産を考えている永守会長だけにちゃんと手は打っている。
説明会では冒頭の形式的な挨拶など一切なく、いきなり事業の説明に入るあたりが永守会長らしい。手元資料の順番通りに説明するわけでもなく、ページがあちこちへ飛ぶから参加者には瞬発力と集中力が求められる。居眠りしている人間などひとりもいない。パソコンのキーボードを打つ音、ノートにペンを走らせる音がこれほど響き合う説明会も珍しいだろう。
「業績の底打ちはハッキリした」。第3四半期の売上高は2Q比で5%の増収。過去最高も更新した。短期の需要を変動させるHDD用モータや産機用モータに回復感が出てきたようである。米中貿易摩擦のリスクが後退する一方で、5G関連の投資が動き出しているらしい。他のエレクトロニクス企業にとっても明るい話と思われる。
短期業績の下振れ懸念が遠のいたとすれば、あとはEV用モータの収益機会のみに目を向ければ良い。EVの主要部品であるトラクションモータの受注見通しが、3ヶ月前の決算説明会からアップデートされた。10月時点では2020年3月期から24年3月期までの累計で455万台であったが、今回は20年3月期から26年3月期までの累計で1,000万台としている。単純に考えると、1年あたりの平均受注数量は前回の91万台から142万台へ引き上げられた計算だ。と言われてもピンと来ないかもしれないが、EV用モータの需要が四半期を追うごとに膨らんでおり、かつ先行きの視界が開けていることを感じてもらえれば良い。
商機を決して逃さないのが永守会長だ。中国やポーランド、メキシコに合わせて5,000億円の設備投資を計画している。「どれだけ作れるかが勝負。性能も大事だが最後はコストや。あんたらはEVの成長に懐疑的なようだが、わしは非常に強気やで。HDDの時も先行投資を心配されたが結果的には当たったやろが」。確かにおっしゃる通り。ぐうの音も出ない。
今回は新聞記者が舌好調の餌食となった。日産自動車のCOOだった関潤氏を招聘した狙いを読売新聞の記者に質問されると、「ノーコメント。今日は決算説明会や。そんな質問すなあ。どうせおたくは大して記事にしないんだから答えるだけ無駄やろ」。一方、京都新聞の記者に対しては、「おたくは大事にせなあかんなあ」。あまりの露骨な対応に、『日本のトランプ』と揶揄されないかとこちらが冷や冷やする。もっともそんな反応を気にするほど、永守会長はヒマでもヤワでもないだろう。しかも、なんだかんだと言いながら、関氏の入社については後日、改めて記者会見を開くようだ。物言いは無茶苦茶なようだが、押さえるべきところはさすがに押さえている。
新聞報道によれば、関氏は次期社長含みで迎えられたそうだ。後継者候補を外部から招くのはこれが4度目か。今度こそ永守会長の思いが実ると良い。