日本の製造業でM&A巧者と言えば、日本電産がまずは思い浮かぶだろう。しかし、日本電産が創業するよりも前から、M&Aに心血を注いできたのが実はミネベアミツミである。
同社にとって中興の祖は、創業者一族で二代目社長の高橋高見(たかはし たかみ)氏だろう。カネボウを辞めて1966年に社長となった高橋氏は、ベアリングとその周辺部品の企業を中心に猛烈な勢いで買収していった。1970年代の主要な案件だけで10社を数える。また、1985年における米ベアリング大手のNHBB買収は、無名の日本企業がアメリカの名門を飲み込んだとして当時はかなりの話題になったらしい。実際、高橋氏による一連の買収劇は、清水一行の手で『敵対的買収』として小説化されている。
『買収王』の異名をとった高橋氏が病に倒れた後、そのアイデンティティを忠実に引き継いだのが、娘婿の貝沼由久(かいぬま よしひさ)現社長である。2009年の就任以来、過去10年で実に17社のM&Aを主導してきた。ハーバード大学ロースクール出身の国際弁護士という華やかな肩書きを持つだけに、そもそも法律の知識に強く交渉も大好きらしい。威風堂々とした姿に永守会長とはまた違う凄みを感じる。貝沼社長が手がけた最大のイベントは、社名にも冠している電子部品メーカーのミツミ電機を統合したことだろう。赤字だったミツミ電機の損益を短期で改善した経営手腕は、株式市場からも高く評価されている。また、自動車部品メーカーのユーシンを2018年に買収し、ベアリングから電子部品まで幅広く手がける総合部品メーカーとしてのキャラクターを備えるに至った。電機業界の中でも異彩を放つ存在と言っていい。
2020年3月期の業績見通しは、売上高1兆円(前期比+13%)、営業利益670億円(同▲7%)。当初の計画から減額されたものの、売上高1兆円は何としても達成したい会社側の思いがにじむ。それにしても、貝沼社長が就任した当時の売上高は2,500億円。10年間での増収額7,500億円のうち、M&Aによる上乗せ効果が5,000億円とみられる。さすが『買収王』の後継者だ。
稼ぎ頭の製品は今でもボールベアリングである。同製品を含む機械加工品事業の営業利益は460億円(前期比▲4%)。営業利益率は実に25.1%。直径22㎜以下のミニチュアベアリングで世界シェア6割を握る実力の結果だ。キーパーツである極小なボールを真ん丸に加工する技術力は並ではない。0.001ミクロン単位の精度が求められる。しかも、月に2億個ものベアリングを生産する能力を持つ。1年間24時間フルに生産したと仮定して、1秒間に約80個のベアリングを量産している計算だ。
それにもかかわらず、全社の営業利益率は6.7%にとどまる。機械加工品以外の事業に課題があることは明らかであろう。2017年に統合されて以降、旧ミツミの事業は黒字体質が定着したとはいえ、今期の営業利益率の見通しは5.6%で依然として改善途上だ。もともとミツミは、アナログ半導体や電源機器、機構部品など、規模の割に手広くラインアップしている。製品分野を絞り込む余地はありそうだ。
日本電産の永守会長がM&A巧者と呼ばれるのは、既存の事業と被買収企業の事業を有機的に連関させて競争力と収益力の向上にうまく繋げているからだ。同じくM&Aで規模を拡大してきたミネベアミツミが、日本電産の領域に足を踏み入れるためには、複数の事業が点で存在するのではなく、それらが線で繋がるストーリーを株式市場に提供する必要があると感じる。