コーヒーが好きな人は多いだろう。出社前に必ず立ち寄る馴染みのカフェを持つ人も少なくないのではないか。家庭でも会社でもない第三の場所。『ストーリーとしての競争戦略』で有名な楠木建氏が洞察しているように、スターバックスのコンセプトは実に秀逸である。
お話ししたかったのはスターバックスのことではない。猿田彦珈琲(さるたひここーひー)のことである。サードウェーブコーヒーの旗手として注目される機会も多いだけに知っている人もいるかもしれない。店名がいい具合に引っ掛かるこの猿田彦珈琲は、日本企業がとかく不得手とするブランディングに優れた企業のひとつで個人的に注目している。
ホームページをご覧いただけば一目瞭然だがとにかくセンスがいい。これほどおしゃれで見やすいホームページは大企業でも稀である。思わずオンラインショップ予約をクリックしたくなるデザインは、グーグルアナリティクスを十分に活用している成果かもしれない。
猿田彦珈琲の社長、というか店主の名前は大塚朝之(おおつかともゆき)、年齢は38歳。もともと俳優だったので顔立ちがいい。元俳優を俳優で例えるのは失礼かもしれないが、岡田将生(そういえば最近はあまり見かけない)にたたずまいが似ている。
2011年にオープンした恵比寿の一号店はわずか8.7坪しかない。高橋一生を10キロぐらい太らせたようなおしゃれな店員が気軽に声をかけてくれる雰囲気は、スターバックスとはまた違って、洗練されていながら懐かしさや親しみやすさもある。「たった一杯で幸せになるコーヒー屋」という大塚社長のコンセプトがちゃんと息づいている印象だ。
「モノよりコト」といわれて久しいが、これからは「コトよりオモイ(思い)」が企業にとっては重要になるような気がする。500円のコーヒーを通じて日本人の生活に潤いを与えたいその思いが、お客さんをして猿田彦珈琲のファンにさせ、ファンになったお客さんがボランタリーに猿田彦珈琲をSNSで広め、それこそ電通や博報堂のような代理店に多額の広告宣伝費をあえて投じなくても集客力やブランド力が波状的に強まっていく。いわゆる「アンバサダーマーケティング」とも呼ばれるが、企業がみずからの裁量でアンバサダーを勝手に任命するのとは異なり、草の根的に自然発生的にアンバサダーが生まれる土壌を作ることこそが、とりわけB to Cに身を置く企業には大切になるのではないか。猿田彦珈琲のブランディングはそのいいお手本と言える。
認知度が高まれば、いろんな企業からコラボレーションの誘いが来る。ジョージア、BEAMS、PORTER、キョロちゃん。異業種とのコラボが猿田彦珈琲のブランド力をさらに高める好循環ができあがっている。興味のある方はぜひ猿田彦珈琲をネットで検索し、実際に足を運んでいただきたい。