少し前の話になるが、USEN-NEXT HOLDINGSが中計説明会を開かれた。会場となった本社は、目黒駅から徒歩1分の目黒セントラルスクエア。2017年竣工の新しい建物には、アマゾンなど勢いのある企業もオフィスを構えていた。同年の経営体制の変更に伴って、新たな船出の象徴として港区から品川区へUSENは移転したようである。
変更したのは経営体制だけではない。働き方改革としてコアタイムを廃するスーパーフレックスタイム制度を昨年から導入。テレワーク制度も併用しているため、終日出社しない社員も少なくないらしい。オフィス改革も進んでいる。フリーアドレスを導入、カフェテリアのようなオフィスのそこかしこで社員がTシャツ姿で気ままに仕事していた。
宇野社長をリアルに見るのは初めてだった。Tシャツの上にカジュアルなジャケットを羽織る。白地のTシャツには証券コードと社名がプリントアウトされていた。おしゃれなのかダサいのか判断できない。日サロで日焼けした肌は乾燥しており、顔立ちは端正だがどこかくたびれており、ピークをとっくに過ぎた吉田栄作を想起させる。
プレゼンテーションは必ずしも上手とはいえない。広報室長として宇野社長をかつて支えた知人男性の話によると、えらいおじさまをたらし込むのがとにかくうまいらしい。それはそれでひとつの才能かもしれないと納得する。
経営戦略は明快。音楽配信で築いた顧客資産75万件へのクロスセルによる成長である。積み上げる注力事業はいくつかあるが、わかりやすいところで言えばコンテンツ配信事業。U-NEXTのブランド名でNETFLIXやamazonプライムビデオと戦う。U-NEXTという名前に聞き覚えがない人でも、GyaOならピンと来るのではないか。2009年にブランド名称を変更している。
経営戦略を聞いた印象はいまひとつ。理由は単純で、収益構造の1階部分にあたる音楽配信の屋台骨が果たして強固なのか疑問なうえに、積み上げる事業はいずれも圧倒的な競争優位を確立しているとは言いがたいように感じるからである。
そもそもU-NEXTはどれだけ認知されているのか。月額利用料金は約2,000円。NETFLIXやamazonなど他の動画配信サービスの平均よりも倍の金額である。コンテンツラインアップで他社を圧倒しているようだが、コストをかければどこの会社もキャッチアップできる話ではないか。一方で、オリジナルコンテンツは作らない考えらしい。南海キャンディーズの山里が蒼井優をデートに誘ったネタは、NETFLIXのオリジナル番組「テラスハウス」だったことは有名だ。オリジナルコンテンツはやはり大事である。
顧客資産の最大活用によるクロスセルを標榜する企業は少なくない。ただ、それが可能となるのは、上乗せする事業に圧倒的な競争力がある場合に限られるのではないか。そうでなければ、顧客の都合を顧みない、単なる売り手側の独善的な戦略に堕しかねないように思う。