ドンキホーテHDからパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)に社名を変更したのは1年前の2019年2月。恥ずかしながら社名が変わったことを知らなかった。「日本のみならず環太平洋地域において小売業の有力な企業として発展していくため」。ドンキホーテHDに比べて、いかにものっぺりとした社名を敢えて採用したのは、海外進出による成長の第2ステージ突入への覚悟を社内外にアピールしたかったからかもしれない。実際、決算説明会の開始に先立つ動画案内では、シンガポールや香港に直近で出店した様子が派手に紹介されていた。
説明会に登場したふたりの人物に感じたことを伝えたいと思う。まず、決算説明を担当した高橋光夫CFOは『スーパーサラリーマン』という印象だ。経営者が備えるべきカリスマ性は感じられないが、実務の遂行において優れた能力を遺憾なく発揮しそうなタイプと見受けた。プレゼンテーションも歯切れが良く無駄がない。いわゆる『番頭』とは、まさに高橋CFOのような人物を指して言うのだろう。
かといって、激烈に業務を推進するだけの堅物とは違うらしい。ユーモアのセンスもちゃんと備えている。通期の業績見通しを説明するスライドにイラストが描かれていた。「下期の業績に対する考え方を表現しています。このイラストは、わたしが応援する巨人を日本シリーズで破ったチームのキャッチャーです。キャッチャーを日本語に訳すと『捕手』。つまり、そうことであります」。どういうことか、おわかりいただけただろうか。『捕手』と『保守』。要するに、下期の業績予想には上振れ余地があると伝えたかったのだろう。やや回りくどいダジャレに会場からは失笑すら漏れなかったが、高橋CFOの茶目っ気を十分すぎるくらいに感じ取ることができた。
これに対して、昨年9月に就任した吉田直樹社長の印象は決してポジティブとは言えない。声は良いけれど言葉が上滑りしており、体の深奥にずっしりと響くような重厚感を欠いている。プレゼンテーション資料を敢えて用意しないところに、みずからが伝える力を持つことへの自信を感じるが、経営戦略に関する説明は網羅的かつ羅列的で立体感に乏しく、投資家・アナリストに結局は何を伝えたかったのか記録にも記憶にも残りにくい。
思い返すと、ソニーの社長時代における出井伸之氏のプレゼンテーションを聞いた時も似たような感覚が襲った。「ソニーのスローガンは『デジタル・ドリーム・キッズ』だ」。誇張なく何を言っているのか当時は理解できなかった。社外の人に伝わらないということは、社内の人にも伝わっていない可能性がある。吉田社長の意思は果たして現場に届いているのだろうか。そんな懸念を持った。
とはいえ、偉大なカリスマ経営者の後を継いで企業の推進力を減衰させないのは本当に大変だろう。実務家と夢想家。二頭体制によって環太平洋への航海が順調に進むといいと思う。