「香」と書いて「かおり」と読みますが「こう」とはあまり読みませんね。「香(こう)」と読むとき、それは香りの源となるものを指します。「お香」と書くと分かりやすいかも知れません。仏教と関係の深い「香(こう)」について、説明したいと思います。
香(こう)とは、白檀(びゃくだん)、沈香(じんこう)、伽羅(きゃら)といった香木の香りのこと。
白檀はサンダルウッドとも呼ばれ、アロマテラピーを楽しまれる方などには馴染みがあるかと思います。他の植物に寄生して栄養をとる寄生植物ですが、その香りは甘く芳潤で気品高く、古来より女性を中心に愛されてきました。
沈香は木の表面などが傷つきその保護のために分泌される樹液が固まり樹脂のこと。この樹脂がさらに年月をかけ熟成されたることで香木としての沈香となります。このため普通の木よりも比重が大きく水に沈むため沈香と呼ばれます。沈香はそのままで香るわけではなっく、熱を加えることで香りがします。
伽羅は沈香の中でもさらに香りがよく最高級とされるもので、ベトナムの限られた地域でしか取れません。沈香と違い熱を加えなくても香りがします。非常に高価なもので、以前私が見せて貰ったものでも5cmくらいの香木で20万円すると言われてました。
日本の歴史上、最も古い香の記録は『日本書紀』に見られます。
推古天皇三年(595)、沈香が淡路島に漂着した。その太さは三尺(90cm)ほどもあった。島人は沈香とは知らず薪と共にかまどでたいた。するとその煙が遠くまでよい香りをただよわせた。そこでこれは不思議だとして献上した。
このことと関係するのか、淡路島はお香メーカーが多いです。さて、この香木が沈香であることを気づいたのは、日本に仏教をもたらしたといっても過言のない聖徳太子といわれ『書記集解』によると、太子はこの沈香をもって仏像を刻み、その残りの香木を「法隆寺」と「太子」と名づけたとされています。このように名のついた香木のことを「銘香」と呼び、天下第一の名香といわれ、時の権力者が愛した「蘭奢待(らんじゃたい)」などが有名です。
お香といえば真っ先に「お線香」を思い浮かべる方も多いかと思います。粉末状の香を練り合わせ、棒状に成型したものです。お仏壇や寺院参拝に使用する方も多く、最も馴染みのあるお香といえるでしょう。
意外に感じるかも知れませんが、日本において線香の歴史は浅く、一般的に使われるようになったのは江戸時代のこと。用途としては時間を計るために用いられ、禅寺で坐禅の時間を計るため、坐禅の時間=線香1本が燃焼する時間として用いられるようになりました。
「塗る香」と書いて「塗香」。「ずこう」と呼びます。香木を粉末状にしたもので、身に直接つけて使用します。寺院では身を清めるため身体につけますが、もともとは体臭などを消す、現在の香水のようなものであり、日本でも風呂に入る習慣がない時代、貴族などは塗香などを用いていました。
焼香は香木を刻んでチップ状にしたもの。香炭(こうたん)と呼ばれる低温で燃えている火種に落として使用します。香を楽しむ最も基本的な方法ですが、今ではお葬式や法事などの印象が強いですね。
粉末状の香に直接火をつけて香を楽しむもの。寺院での法要や祈祷にも用いられる。本尊へ長時間の香を供養するための常香盤(じょうこうばん)などにも用いられます。
練香(ねりこう)は粉末状を香を蜂蜜と一緒に練って団子状にしたもの。焼香と同じく香炭の上においてその香りを楽しみます。お茶席で使用したりもします。
こねこねして作るので楽しい(笑)
以上、香についてイロイロと書いてきましたが、最後は香にまつわるこぼれ話を上げていきたいと思います。
4月18日はお香の日です。これは前述の『日本書紀』の沈香の記述が「推古天皇3年4月」であること、さらに「香」という字をバラすと「一十八日」となることから平成4年4月に全国薫物線香組合協議会によって制定されました。
香には10の徳、つまりいいことがあると、北宋の歌人、黄庭堅によって記され、一休さんこと、一休宗純により広められました。その10徳とは次の通りです。
1.感覚が研ぎ澄まされる
2.心身を清浄にする
3.ケガレを取り除く
4.目覚めが良い
5.1人で楽しめる
6.心を落ち着かせる
7.邪魔にならない
8.少量でも十分に効果がある
9.長期保存ができる
10.常用しても悪いものではない
線香の香りを楽し見たいときは、1度水に濡らしてから火をつけると香りがより広がるようになります。火がつかないなんてこともないですよ。もちろんフニャフニャになるまで濡らしちゃうと難しいですが。
「残り香」という言葉があります。立ち去った人の香りが残ることを表しますが、これはもちろん体臭などではありません(笑)当時の貴族は、それぞれ自分で調合したお気に入りの香を匂い袋として携帯していたといいます。つまり、その香りが残ることを残り香といいます。今の香水と同じですね。
また手紙に添えて香りを贈る「文香(ふみこう)」という文化もありました。香りの贈りものなんて素敵だと思いませんか。
白檀は香りだけでなく、その効能も非常に有用だと古来より重宝されてきました。白檀を見つける方法として蛇が巻き付いている植物を探すとか。これは白檀の薬効で体を治癒するために蛇が巻き付くためだそうです。
以上、お香についてイロイロと書いてまいりましたが、お香=古くさい、葬儀、陰気くさいなどと思わず、日本古来より伝わる香りによる癒しの効果、つまりアロマテラピーなのです。私自身、仏教の世界に身を投じて、初めにお世話になった寺院で使われいた香がいまだに身に染みついています。そちらの寺院で焚かれていたお香を焚くと、とたんに凛とした寺院らしい空気感に変わります。
このように香りという体験は人間の記憶に大きく影響します。例えば好きな食べものの香りを嗅ぐと食欲が刺激されますし、「日中に干した布団の香り」というとおそらくその香りの記憶が再現されるはずです。その体験からkontonGのお寺でも、香りと共に祈祷の体験を記憶いただこうとオリジナルのお香を制作しています。さっきからしつこいくらいの「柘榴香」シリーズですw
この投稿がぜひぜひ皆さまの生活に「香」を取り入れていただく機会となりますよう!!