妹は方向音痴である。地図音痴でもある。
「お姉ちゃん、道を覚えるにはどうしたら良いの?」
出かける前の彼女はさも不安そうに聞いた。
「どうって、曲がり角とかで目印になる物を覚えておくんだよ」
「そっか。そうだよね! 行ってきます」
あっさり問題解決、といった様子で妹は家を出ていった。やれやれ、これで一人静かに読書に没頭出来る。私はコーヒーを入れると、先日購入した小説を手に取りソファーに寝そべった。一時間ほどたった頃だろうか? 突然携帯電話が鳴り響いて、私は我に帰った。
「もしもし?」
「あ、お姉ちゃん? 道に迷ったみたいなんだけど……。ここが何処だか分からないの。どうしよう?」
まったく、しょうがない妹である。だが放っておくわけにはいかない。
「スマホのマップ見てみな。それでも分からなかったらまた電話して」
「地図見たけど分かんない」
「近くの電柱見て、今いる番地教えなさい」
「春山町2ー11ー3て書いてある」
私は急いでGoogleマップで妹の現在地を検索した。
「オーケイ。あんたの居るところから本屋が見えるでしょう?その本屋を左手に真っ直ぐ行くと交差点が有るから、そこを右に曲がって……そしたら知ってる大通りに出るから。後は分かるでしょ?」
「分かった。右だね」
30分ほどして、妹は帰宅した。
「さっきは有り難う、お姉ちゃん。でも私、今日はちゃんと目印覚えていったんだけどな」
てへへ、と妹は笑った。
「どんな目印?」
「うん。こう行ってああ行ってーー赤い車の止まっている十字路を右に……」
「車ってあんたね。動くものを目印にしちゃ駄目でしょう?」
こんな妹が結構好きだ。