三岐鉄道ラブストーリー(1)
タカギとミズキは四日市高校からの帰り道に三岐鉄道を利用している。電車に乗り込むとタカギはカバンから数学の問題集とスマホを取り出し、数学の問題を写真に撮っている。それを見ているミズキが尋ねる。
「何をしているの?」
「うん、塾に送信すれば解き方を教えてくれるんだよ」
「え、そうなの?いいわね」
その後も、タカギはスマホをいじっている。
「今度は何なの?」
「うん、いなべFMにメッセージを送ろうと思って」
「何て書いているの?」
「うん、今カノジョと三岐鉄道に乗っているって」
「えー?私、タカギくんのカノジョなの?」
「・・・嫌?」
「エ?」
「嫌ならカオリンに追伸を送るけど・・・」
「カオリンって、だれ?」
「あれ?今、妬いてた?」
「そんなワケないじゃん!!」
「カオリンは、いなべFMのパーソナリティの名前だよ」
黙って見つめあう二人。
そのとき、ものすごい雷の音がして、光が電車の周囲を包み込む。タカギとミズキは気を失う。
気がつくと、三岐線の電車は停車しており周囲は真っ暗の闇夜だった。
「タカギくん、大丈夫?」
「うぅん、あぁ・・」
二人は外に出る。
「ミズキちゃん、大変だ。線路が消えている!!」
そのとき、背後から二人の武士が二人に斬りかかる。
「わぁ、なんだ、お前たちは!」
「おぬしたちは治田城のものか!」
「は?治田城?」
「織田信長様に逆らうとは、愚か者め!」
さらに切りかかってくる。
「滝川一益様が明智川まで来てみえる。観念せい!」
「おまいら、全員地獄行きじゃ!」
逃げるタカギとミズキちゃん。そのとき、竹やぶから別の武士が飛び出してきて、一人の武士を刺し殺す。
「ぎゃぁ!」
「高木権六と申す。お助けいたす。治田城はあちらでござる」
ワケが分からぬタカギとミズキは礼も言わずに逃げる。
「ぐわぁ・・・!」
振り返ると、先ほどの助けてくれた武士が矢に射抜かれて倒れる。
「タカギくん、これ夢なの?」
「いや、二人で同じ夢を見るなんて無いだろう」
二人は教えてもらった方向をめざして走る。
「さっき、織田信長とか滝川一益とか言ってなかったか?」
「ということは、ここは戦国時代ということか?」
「そんなバカな!」
「タカギくん、じゃ、さっきの高木権六とかいう人。タカギくんのご先祖様かも」
「何を言ってるんだ!」
「ちょっと待って。あれ、藤原岳じゃない?」
「小野田のセメント工場がない!」
そのとき、右の方向から雨のような矢が二人にめがけて飛んでくるのが見える。
「わぁ、もうダメだぁ!!」
「タカギくん!!」
「ミズキちゃん!」
二人は思わず抱き合う。矢が二人に突き刺さる瞬間に、再び大きな雷鳴が轟き二人は光に包まれる。
気がついたら、三岐鉄道の中だった。阿下喜駅が見えてくる。抱き合っている二人は慌てて分かれる。
「タカギくん、さっきの何だったの?」
「SFでやってた、タイムスリップか?」
「そんなバカな・・・」
「高木権六さんって、実在したのかな?」
「・・・・」
ミズキは駅前で待っている迎えの車に乗り込む。タカギは自転車に乗る。
「じゃ、またね」
「うん、私のカレシ!」
ミズキは笑いながら車のドアを閉める。
タカギは、藤原岳を見ながら自転車をこぎ始める。
終わり。