私は名古屋大学の教育学部を卒業した時に「良い英語の先生になろう」と決意しました。ただし、予備校か塾の講師をめざしていました。学校に良い思い出がありませんでした。
そこで、まず刈谷の小さな個人塾に勤務して塾講師の仕事をスタートさせました。ただ、中学生相手の仕事だったのですがうまくいったとは思えませんでした。その主な原因は素行の悪い生徒が何人もいたからです。私は中学生時代に素行の良い少年だったので素行の悪い少女の指導方法が分かりませんでした。
2年目は名古屋の大規模塾で成績上位の子のクラスを担当させてもらったので非行少女のような子はいませんでした。自分の中学生時代のような子が多かったので指導がしやすかったです。
しかし、さすがに名古屋となると人口が多いこともあり成績優秀な男子は東海高校、成績優秀な女子は南山女子といった有名校をめざしていました。自分の英語力では足りない気がしました。
そこで、インターンシップというプログラムに参加してアメリカのユタ州にあるローガン中学校で1年間中学教師をやらせてもらうことになりました。ホストファミリーはその町の教育委員会の委員長の家でした。
帰国する頃には自分の英語力に自信もあり、帰国後に英検1級や通訳ガイドの国家試験に合格して名古屋の河合塾学園や名古屋外国語専門学校、コンピューター総合学園HALなどで14年間英語講師をさせてもらいました。
この頃、生徒アンケートで40人中2番人気の講師だったので指導力にも自信がありました。
夕方は自分の塾を開設して英語と数学の指導にあたりました。ところが、地元三重県北部でも高田高校や四日市高校のトップクラスの子たちには私の経歴は不足だったようなのです。
国立大医学部や京都大学をめざす子に言われました。
「英検1級って、京大英語の二次試験の7割程度なのかなぁ」
日本には大別して3種類の英語があります。学校や塾で習う「受験英語」。ECCなどの英会話学校でならう「資格英語」。そして、ビジネスマンがネイティブ相手に使っている「ネイティブ英語」です。受験英語の目標は受験の合格。資格英語の目標は英検などの資格。ネイティブ英語は商談や論文発表が目標となります。
賢い生徒は、その区別が出来ているので「資格英語」で「受験英語」が戦えるのか疑問を持ったのでした。私はローガン中学校で
「ミスタータカギは若いのに何でジジイのような英語を使うの?」
と尋ねられて以来、
「受験英語はジジイの英語。古すぎる」
と、知りました。資格英語も同様です。
とにかく、実証しないと生徒の方の信用を得られないので実証することになりました。つまり、自分で京都大学を受けて8割を超えて見せることです。実行したら、8割を超えたので信用してもらえました。
英語力がついた頃、気がついたことがあります。それは、学力が高くて素行の良い生徒に言われた
「先生、Bくんを塾から追放して下さい。してもらえないなら、ボクが塾をやめます」
という言葉。Bくんというのは不良でした。授業中に大声を出すし、備品は壊すし、月謝は踏み倒す。学校でも問題児で有名な子でした。それが、どういうわけか私の塾に来たのでした。
そんな悪い生徒のいる学校で嫌気がさし、英語力と数学力に定評のある私の塾に来てくれたのに、学校と同じ状況になったのでは確かに塾に来る意味がありません。
その時に、私は選択を迫られました。
「学年トップの子をとるか、地元で有名な不良のBくんをとるか」
私の選択は学年トップの子をとることでした。塾の規則を守れない子は強制退塾という約束があったので厳格に適用して非行少年には塾を去ってもらいました。
塾や予備校には様々なタイプのものがあります。低学力の指導が得意な塾や、難関受験指導を得意とする塾など色分けがハッキリしています。中華専門の店があれば、フランス料理専門の店があるような感じです。
私は自分の塾を「真面目で高学力の子」のためという理念で育ててきました。そうしないと生き残れない事情もあるし、自分が身につけた高度な内容を教えるには基本ができていて意欲がある生徒でないと無理なのでした。
コロナが広がった1年目は
「1年くらいで収束するだろう」
と思いました。しかし、2年目が更に酷いことになり三重県もとうとう「緊急事態宣言」が出されて国体も中止となりました。修学旅行も、文化祭も、体育祭も中止になり、部活も中止となりました。
私の塾は「個別指導」と「個人指導」中心だし、感染対策もしているので塾生と保護者の方は安心してもらっているようです。
しかし、集団指導の塾には先程書かせてもらった素行不良の生徒も多いので困っているようです。素行不良の生徒は、マスクもせずに大声を出すことが多いからです。すでに、三重県の集団指導塾でクラスターが発生しています。
私は、真面目な子だけに塾生の方を限定してよかったと思っています。真面目な子は決して大声を出さないからです。マスクも手の消毒もきちんとしてもらえます。
集団指導の塾では、自習室も満席で密になるし、対策としてオンライン授業に切り替えてみえるようです。しかし、その設備が高額なので当然ながら月謝に反映されます。そのため、
「オンライン授業なら、YouTube の無料動画の授業の方がいい」
と考える方が増えているようです。
日本は本音と建て前の国で、国際的に見て理解しにくい文化と言えます。私は本音で受験指導をしようという覚悟を持って経営しています。