私の家は母子家庭だった。幼い頃から祖父母の家で育てられ、祖父が父代わりとなってくれていた。そんなわけで「血縁上の父」に関して私はあまり興味がなかったし、そもそも父という存在について考えたことがなかった。
そんな私も成長するにつれて、「血縁上の父」に会ってみたいという気持ちが芽生えてきた。母に父のことについて尋ねてみると、酒癖は悪く、ギャンブル依存者ですぐに暴力を振るうDV夫だったと言われた。それを聞いたとき、祖父がよく口にしていた「女の子は全員お姫様だから優しくしなさい」という言葉の本当の意味を理解した気がした。話に聞いた父は最低最悪な男だったが、それでも一度でいいから会ってみたいという気持ちは消えなかった…。
私が小学校四年生になり、野球少年団に入団して数ヶ月経った時、母が電話相手に「どうして電話番号を知っているの!!」と怒鳴っていたことを覚えている。しばらくしてその電話が終わり、誰に怒鳴っていたのかが気になり、母に聞いてみるとその相手は父で、探偵を雇い私と弟に会うために調べていたことを知った。私は今回が最初で最後のチャンスかもしれないと思い、父と会うことを決心した。
私は小さい頃から運動が誰よりもできたし、そこそこルックスもよくモテていたことから父もルックスがよく、身長が高くて、今は改心をして、何でもできるアメコミヒーローような人になっているのだと想像していた。
父に会いに行くと、高そうな海外自動車が停まっており、私の気持ちをさらに高揚させた。しかし、実際にその車に乗っていたのは、私の想像とはかなり離れた人物だった。身体は大きかったが、私のイメージしたアメコミヒーローのようなカッコよさはなく、どちらかというとハリーポッターのハグリットを演じている時のロビー・コルトレーンをスーパーヴィランにした感じにそっくりだった。
外見で驚いたのはそれだけでは無かった。両腕には二匹の龍が入っており、心なしかその二匹の龍は私を睨んでいるような気がして気が引けてしまった。すぐに私はこの人はヤクザ関係の人であると認識した。父は私の頭を撫でてくれていたが、その時の私の頭は真っ白だった。正直にいうとずっと怯えていた。今まで会ってみたかった父なのに早く帰りたいという気持ちが強くなってしまった。しかし、よくよく父の腕を見てみると、そこには私と弟の名前が入っていた。なぜ名前が入っているのかと疑問に思い、恐る恐る聞いてみると、もし交通事故などで記憶を失った時に絶対に名前を忘れぬよう、私と弟の名前を彫ったそうだった。その時私は人生で初めて父という存在の愛を感じた。
これが私と父の初めての出会いだった。