04/09/2016
Edinburgh Festival fringe 2016、先日全ての公演が終了し無事に日本に帰ってきました。改めまして、ご支援くださいました皆様、そして沢山のご声援有難うございました。
fringeに参加するようになって3年目。今年初めてのfull run(開催期間全参加)ということで体力面、資金面など多くの不安要素もありましたが、終わってみると過去2年とは大きく違う世界を体感することが出来ました。
そして先日、fringe事務局が2016年度の公式な数を発表しました。
期間中約3週間の間に、294か所の劇場で、3,269の作品が上演され、全部で50,266のステージが行われました。チケットの総売り上げは、2,475,143枚。
これらはほぼ昨年と同数ぐらいの数字だと思います。とてつもない数字ですが、この中の1つとして作品を上演出来たことは大きな喜びであり、よくもまぁこんな中で戦ったなぁという達成感で一杯です。
これだけの数の中、僕たちMY COMPLEXの上演作品「TENT」は4ッ星レビューを獲得し、The Asian Arts AwardsのShortlistに公式に選考されたことは、ご声援くださいました皆様に何かしらの形として残せたのではないかとホッと胸を撫で下ろすと同時に、素直に嬉しく思っています。
ですが、今年はそれ以上に舞台人として大きな収穫が沢山ありました。それは、これまで以上に多くの人と逢い、情報交換が出来たことです。
まず、fringeの運営に関わる人々。当然、世界最大の舞台芸術の祭典に携わるスタッフの数は膨大です。その中でも事務局本体で各セクションをまとめる立場の人や、エディンバラ市議、また日本総領事の方々など様々な立場でfringeを支える方々との出会い、観劇してくれたことはとても刺激的で、改めて身を引き締めた出来事でした。
fringeに参加するということは、ただ作品を海外で上演すると言うことではなく、個人の考え方やアイデンティティを見つめ直す機会でもあり、私たちが日本人だということを容赦なく突きつけてきます。これは日本で作品を創っていた頃とは全く違う感覚でもあります。
過去2回の参加でも同様のことは感じましたが、フルランしたことでより深く考えることが出来ました。
そして、1ヶ月滞在したことで自分たち以外の作品にこれまで以上に足を運ぶことが出来たのもとても大きな収穫です。単純に他のアーティストの作品を観ることは同業者として参考になりますし、得るものは沢山あります。
ですが目的はそれだけではありません。
観れた作品は全28作品。1日に3作品観た日もありました。国籍やジャンルも様々です。
ここで全ての感想は書けませんが、観た作品の全てにあらすじと作品のポイント、そしてその作品に対して書かれたレビューやインタビューなどを全部チェックし残してあります。
これはとても大事なことで、それらの作品がどのような文化的背景の中から生まれ、世界に対してどういったメッセージを伝えようとしているのか。
そして、その作品にどのような評価が出されているのか、さらには自分たちが感じた事と相違がないのかなどを徹底的に調べます。
fringeに参加しているアーティストは基本的に「キャーキャー言われに来ている人」は(少なくとも僕たちが観た28作品)いません。Theatre系はもちろんですが、それが例えコメディやキャバレーであってもです。
誰もがその国の歴史や文化などを背負い、膨大な知識と訓練を重ねた上で自分たちの作品に誇りを持って命がけでfringeに乗り込んで来ています。
それらを具体的に分析することで、私たちの今後の作品創りの参考にするだけでなく、彼らの意気込みを知ることが出来るからです。
何故、自分たち以外の作品やアーティストを知り、彼らと共通の話題を持つことが重要なのか…。それは、私たちMY COMPLEXは”ただ毎年Edinburghで独り芝居を発表出来ればいい”とは思っていないからです。
具体的には、近いうちに様々な国のアーティストや制作者たちと共に作品を創りたいと考えています。
日本ではまだほとんど行われていませんが、人種も文化も言葉も違うアーティスト同士が共通言語を使って、全ての人に届けることが出来る作品が世界では当たり前に創られています。
今回観た作品の中にも、フランス人の演出家がスペイン系、ヨーロッパ系、アフリカ系、中国系の俳優と英語の作品を創っていました。
また、アフリカ系のプロデューサーの元でアジア系とヨーロッパ系の俳優が複数言語で上演してしているのもありました。
そして、それらの作品を世界中から来た様々な人種の人たちが隣同士に座って観劇している。日本でもこういうことが普通に行われなければならないと思いますし、遠い未来にはいずれそうなる日が来るでしょう。
それにはより多くの作品を観て、その創り手を知り、彼らと情報を共有することが大切だからです。日本では外見や知名度などで作品やアーティストを判断しがちですが、世界中から様々なバックボーンを抱えて集まってくるアーティスト達に、生半可な知識や中途半端な作品への見解で声はかけられません。
今後、私たちがどういった作品を作りたいのか、そして彼らの作品や考え方をどのように受け止めたのか、それを顔を合わせて話すことでMY COMPLEXに…また日本に興味を持ってもらうことで、いつか共に日本で作品を創作することが出来たらこれほど素晴らしいことはないと思っています。
実際、UKはもちろんの事、アメリカ、ニュージーランド、スウェーデン、シンガポール、フランス、ドイツ、ケニアなどのアーティストやプロデューサーと親しくなり、有益なやり取りを行う事が出来ました。
そして今後も絶えず情報交換をしていくつもりです。これは私たちMY COMPLEXの今後の活動にとって幅をもたせてくれるだけでなく、日本の舞台芸術や私たちが活動する地域にとっても何かしらを還元する事ができるものだと確信しています。
こうした人々との出会いは作品の評価や賞とは比べることが出来ない大きな収穫であり、今後の私たちの活動をより具体的にイメージさせてくれました。
と同時に、多くの反省点も見えてきました。私たちの作品はフィジカルシアターやダンスではなく、あくまで台詞を使った”物語”です。
より高い英語力はもちろんの事、世界中の人に届けるための物語はより鋭く、普遍的でなければなりません。そのヒントをレビューは提示してくれたと思いますし、様々な人からフィードバックをもらうことで、よりいっそう明確になりました。
私たちMY COMPLEXの抱く理想のイメージがすぐに形になるとは思いません。
ですが、毎年しっかりと作品を創り、真摯に世界の演劇と向き合うことで新たな出会いが生まれ、それが自然と作品の評価に繋がるのだと思います。
そして、これを読んで頂いている皆様のご支援やご声援を無駄にすることなく、これからも”等身大の今”を切り取り続けていきます。
Edinburgh fringe 2016、まだまだここでは語りつくせないぐらいの沢山の経験をすることができました。本当は直接皆様の前で体験したことのすべてをお話ししたいのですが、それはまたどこかで機会があれば…。
私たちはすでに来年の作品創りを始めています。そして日本の舞台芸術が少しでも早く世界と肩を並べることが出来る様、挑戦してまいります。
今後もMY COMPLEXの活動にご注目いただければ幸いです。
改めまして、この度は「TENT」へのご支援誠に有り難う御座いました。