台風19号は各地で大きな被害が発生し、特に千曲川の堤防決壊で新幹線車両が水没した映像は衝撃をもたらした。近年自然災害が多いが、東北や関東、九州、中国地方など遠い場所で、大変だなぁ、程度にしか感じていなかったが、長野は隣県、登山でもお世話になっている。
晴れた日曜、山へ紅葉を愛でに行きたいが、自分ばかり楽しんでいていいのかとボランティアに出かけた。
朝、町内の草むしりがあった。これもいわば地元のボランティア活動なのでしっかり参加して、高速で長野に向かう。南長野運動公園に、ボランティア受付開始時刻の9時に到着。すでに受付に行列が。
熱いハートをもったひとが多いなー、日本人っていいやつばっかやん、と感心して並ぶ。
延々と続く行列に並んでいると、社協(社会福祉協議会)の方が来て、
今日はたくさんの人が来ていて、折り返し地点から以降の方には作業を案内できないかもしれません、せっかく来てくれてすみません
と案内していった。
1時間並んでようやく受付のブース内に入る。ボランティア保険加入用紙と名札に氏名を書き、その後簡単な説明を受けて5人ずつのグループに分けられる。
5人で相談して、サテライトセンターの篠ノ井支所へ移動して下さい
と告げられる。
てっきりバスで移動するのかと思っていた。バス待ちも大行列でさばけないのかもしれない。
静岡から来た30代らしき男性Tさん(リーダー)、群馬から来た保育士Sさん、諏訪と伊那の間の辰野町から来た20代のAさん姉妹、odktmの5人で、まずは私の車で篠ノ井支所に移動することにした。
篠ノ井支所に着くと先に受付を終えて移動を指示されたグループが、これまた結構な人数並んでいる。
とりあえず5人いっしょに並んで待っていると、社協の人が奥から出てきて、
依頼主の方とコンタクト取れなくて、現地に案内できない(要するにもうニーズがない)
北部地区のほうが被害が大きいので、駐車場を準備しているところだ
しかし、北部までは車で30分以上かかる
そうすると今から移動しても作業は1〜2時間しかできない
また、駐車場が準備できても、確実に車を止められないかもしれない
という状況なんです
すみません!!!
と言って頭を深々と下げていた。
まぁ、早い話がお帰り下さいということである。
そっかー、しょうがないよねー、こんなに大勢の人が来てるんだもん。受け入れ側も困っているんだろう。
もう11時だし、温泉でも入って、お土産買って帰ろうかな〜と考えていると、
Tさんが
やっぱりせっかくだから少しでも作業したいですよね、odkさんさえ引き続き車を運転してもらえれば、皆行くと思うんですけど、どうですか?
とおっしゃるので、
「温泉でも寄って、、、」という提案など、できようはずがありません。
社協の方が駐車場が準備できたというので、場所を伺って30分かけて東部保健センターへ移動。車はスムーズに止められた。帰った人も多いのだろう。ちょうど12時になったので各自おにぎりなど食べながらバスを待つ。
バスが来て、さぁいよいよ向かうぞとなったら、ちょうど自分たちグループの手前でいっぱいに。
次のバスを待つことにすると、社協の方が電話で連絡を取りながら、
現場が混乱していてもうバスは来ない
サテライトセンターの下駒沢公民館へは歩いて移動するしかない
そこまで3kmくらいある
そうすると、行っても1時間も作業できないかもしれない
と言う。
さぁもうこれは帰るしかないな、と思っていたら、何人かがスマホで場所を調べて3kmもない、歩いて20分位で着くということがわかる。
数グループが歩き始めて、自分たちも「じゃ歩きますか」的につられて歩く。
スコップを持って田圃道をゾロゾロ歩いていく。
まるで難民みたい、と思った。
下駒沢公民館に近づくと、この辺りは被害の大きかった穂保地区に近いのか、水に浸かった家も見え始め、道路脇にゴミが山積みにされている。
田圃には収穫前の稲が水に浸かったんだろう、一面力なく倒れている。
公民館前には、我々のように作業を求めて今しがた来た人、作業を終えて帰ってきた人などでごった返していた。
2階に上がって待っていてくれと言われる。
公民館とはいえ、2階はステージに緞帳が下がっている立派な建物だった。床には汚れないよう、一面ブルーシートが敷いてあった。
今し方作業が終わったのだろう、高校生たちが体操服姿でゾロゾロ出て行った。
しばらく隅のほうで座って休んでいると、隣の方が声を掛けてきた。
私、消防団の者なんです。
実は消防の服を着れないんですよね。
消防の服着てると、「お前らが早く避難誘導しなかったからこんなことになったんだ!」って怒られるんですよ。
だから、上の方から服を着るなって指示がきて。
この辺の人たちは避難した後に水が浸かったんでそうでもないですが
南部は水が速かったんで、特に怒るんですよ
もう、精神的にまいっちゃいますよ。
3回くらい、同じことを繰り返し繰り返し話していた。
うんうん、大変ですよね〜、と聞いて上げるしかなかった。
ようやく社協の方が2階に上がってきて、
ゴミを分別する作業があります!
ということで、待っていた40~50人くらいでゾロゾロ移動した。
10分ほどで現地に到着。そこは各家からでた大量のゴミの集積所になっていた。燃えるゴミ、不燃物、家電など、あらかた分けて置いてある。分けてあるんだが、キチンと分けてほしいという依頼だった。
1時40分、ゴミ袋に入った中身をもう一度チェックしていく作業が開始した。
なんとなく、ゴミを右から左に移動しているだけのようなのだが、みんなやっとありつけた作業に「これは不燃ですかね」「あ、これは家電だ」などといいながらせっせとゴミを漁っていく。
ゴミの中にはお人形やぬいぐるみ、写真やはがきなどもあって、ちょっと切なくなる。
すぐに衣服と長靴はドロドロになってしまった。
1時間経つと乱雑に置かれていたゴミが、すっかりきれいに整頓される。ゴミを整理整頓しても、運び出さなきゃ意味がないのだが、運搬の車両がまったく足りていないとのことであった。
作業を終えて、駐車場まで5人で歩いて帰る。
どっと疲れが出たのは、作業そのものよりも解放感からだろうか。被災現場を目の当たりにしたからだろうか。
Tさんが、
私たち、役に立ったんでしょうかね?
とつぶやいた。
通りがかりに地元住民のおばあさんたちが
どうもありがとうございます
と深々とお辞儀をされて、Aさん姉妹が
何にもしてないのに感謝されちゃって、いいのかな〜
とSさんに話していた。
その後、私の車で運動公園の受付に戻って、高速無料の書類をもらって解散した。
5人とも、満足げな顔をして、別れの挨拶をした。