最近2つのニュースがe-sports界隈を賑わせています。
まず1つ目はこちら。
「パズドラ」最強決定戦 中学生の優勝が1つの波紋を呼んだ【TGS2019】(日経Xトレンド)
東京ゲームショウ2019内のイベント『PUZZLE & DRAGONS CHAMPIONS CUP TOKYO GAME SHOW 2019』というプロゲーマーによる総額1,000万円のe-sports大会での出来事。強豪たちを倒して優勝したのは中学生プロゲーマーのゆわ選手だったが、彼が中学生であったため優勝賞金の500万円を獲得することができなかったというもの。
続いてはこちら。
国内有名eスポーツ大会:優勝賞金500万円がまたも10万円に(Yahoo!ニュース)
同じく東京ゲームショウ2019内のイベント『CAPCOM Pro Tour 2019アジアプレミア』での出来事。優勝したのはプロゲーマーのももち選手。世界最大規模のゲーム大会「EVO2015ウルトラストリートファイターIV部門」の優勝経験をもつ有名プロ―ゲーマーだが、JeSUが発行する「ジャパン・eスポーツ・プロライセンス」を所持していないため、500万円の優勝賞金が約6万円まで減額されたというもの。
どちらも同じイベント内で、大会が定める賞金を受け取ることができなかったという点では共通しているが、詳しく見てみると原因は同じかもしれないが、それぞれ違った理由が存在するので今回は誤解が生まれぬようなるべく分かりやすく解説していこうと思う。よく知らずになんとなくで協会や大会、さらには選手のことを批判する方もいる始末なので、是非大まかにでも知っていってください。長くなるけど許してね。
<目次>
1.e-sportsにおける賞金と景品表示法
2.JeSUという団体とプロゲーマー
3.なぜ賞金がもらえなかったのか
まず、日本において「ゲームの大会で賞金を出す」という行為には厳しい法律の規制があり、高額賞金が出される大会はこれらの規制をうまくクリアしている。注意すべき法律は「景品表示法」「刑法賭博罪」「風営法」の3つ。
その中でも重要な「景品表示法」における規制を考えるうえで、まずはゲームを2種類に分けて考える必要がある。
a)基本プレイ無料ゲーム と b)有料販売ゲーム
この違いだけで景品表示法の適用も大きく変わってくる。どちらがより厳しく規制されているかというと、実は b)有料販売ゲーム のほう。こちらで高額の賞金を出すとゲームの販売促進を助長していると捉えられてしまうため、賞金は最大10万円と規定されている。一方で基本プレイ無料のゲームは上限がない。ただし、基本プレイ無料のゲームであっても課金によって勝敗に優劣が付く場合は課金を促進させるためとされ、有料販売ゲームと同じく賞金に最大10万円の規制がかかる。
次に説明するのが誤解が生まれやすい部分。有料販売ゲームにおいて、賞金上限に規制がかからないパターンが2つ存在する。
Ⅰ)大会賞金を第三者のスポンサーが拠出する場合
Ⅱ)大会運営と選手側で労働契約が結ばれている場合
Ⅰ)大会賞金を第三者のスポンサーが拠出する場合
ここでいう第三者とは、ゲーム会社や出場選手とは無関係のスポンサーのこと。スポンサーから大会賞金がでるのであれば、それは販売促進にはあたらないため賞金に上限はかからない。e-sportsがもたらす経済効果・宣伝効果に期待した企業が協賛に乗り出しており、TOYOTAや日清食品、三井住友銀行などの大企業も参入している。
Ⅱ)大会運営と選手間で労務契約が結ばれている場合
ゲーム大会を一種のショーのように位置づけ、労務契約を結んだプロゲーマーなどを大会側が招集し競わせる。そして順位によって賞金という名目の賃金を支払う。誰もが自由に参加できる大会とは異なるため、販売促進にはあたらないという考えで、賃金である賞金に上限はない。ここで初めてプロゲーマーという肩書を考慮する必要が出てくるとともに、次に述べるJeSUの存在理由にもつながる。
ここまでをいったん図にまとめよう。
JeSU(日本eスポーツ連合:Japan esports Union)は2018年2月に発足した団体。日本eスポーツ協会(JeSPA)、e-sports促進機構、日本eスポーツ連盟(JeSF)の3団体が併合する形で誕生した。
e-sportsの普及を目指して活動を行っており、国内外で活躍できるeスポーツ選手の育成や地位の向上を目指すべくプロライセンスを発行している。
先ほど述べた「労務契約」が非常にあいまいなもので、この解釈を拡大して過剰な賞金を出す大会やゲームが出現することも否めない。そこでJeSUが公認ゲームと公認プロライセンスを発行することで、賞金の受け渡しを円滑化することを試みている。
ここまでを理解したうえで、今回の大会において両選手が賞金を受け取ることができなかった理由を見てみよう。
1項で述べた通り、ゲームの種類と大会の開催方法、大会のルールが重要になっているためそれぞれをまとめる。
『パズル&ドラゴンズ』の大会は、基本プレイ無料でスポンサーからの賞金拠出、大会開催方法も事前に選出されたプロ選手のみ参加ということで、興行性の高い大会といえよう。
一方、『ストリートファイターV』の大会は、有料販売のゲームであり、賞金は開発元であるCAPCOMが拠出し、予選大会は13歳以上であればだれでも参加する資格を持つ。1項で述べたいわゆるグレーゾーンと考えられていた範囲での大会開催である。
・中学生プロゲーマーゆわ選手が賞金を獲得できなかった理由
賞金を年齢により制限する法律などは存在しないため、単に彼が中学生であったから賞金がもらえなかったというわけではない。ゲームの大会であるから教育的な配慮が必要ではないかという意見もあるだろうが、将棋やチェスの例もあるのでここでは論じない。
彼が賞金がもらえなかった理由はこの大会がJeSUの賞金規定に則って開催されたためである。実はゆわ選手が所持するライセンスというのは多くのプロゲーマーが持つ「ジャパン・eスポーツ・プロライセンス」ではなく、13歳以上15歳未満のための「ジャパン・eスポーツ・ジュニアライセンス」というものだ。そしてJeSUジュニアライセンスの規約の中にこのような記載がある。
4.2.3 ジュニアライセンス保持者は、JeSU が IP ホルダーその他関係者と協議 の上で別に定める場合を除き、予め賞金(報酬)を受領する権利を放棄す るものとするが、JeSU において相当と認める範囲のものに限り、賞品を受領することができるものとする。ただし、金券に類するものとして JeSU が 別途判断するものは賞品としても受領することはできないものとする。
この規約に則って大会ルールが制定されているため、ゆわ選手は賞金を受け取ることができなかった。
・有名プロゲーマーももち選手が賞金を獲得できなかった理由
こちらも理由は同じく、大会がJeSUの規定に則って開催されたためである。
賞金受領権を獲得した者が大会当日にJeSUが発行する「ジャパン・eスポーツ・プロライセンス」を保有していない場合、大会規定の金額にかかわらず賞金の最高額は10万円とする。
ももち選手はプロゲーマーであるものの、「ジャパン・eスポーツ・プロライセンス」を所持していない。所持する資格をもたないわけではなく、その受け取りを拒否している。
ももち選手はJeSU設立前である2017年末に「日本国内におけるプロゲーマーのライセンス制度について」というJeSUに疑問を呈する声明を発表している。
その中には、
「なぜ新設される予定の特定の団体に"プロを定義"する資格があるのだろうか」
といった記述もあり、「プロゲーマー」という単語が一般的ではなかった時代から道を切り拓いてきた人物ならではの考えが伺える。
・JeSUは本当に必要なのか
ゆわ選手はライセンスを持っているにもかかわらず、賞金がもらえない。
ももち選手はプロゲーマーの実績があるにもかかわらず、賞金がもらえない。
どちらも法律上では高額賞金を受け取ることはできたにもかかわらず。
JeSU不要論もささやかれているが、JeSUによって新たに拓かれた賞金制ゲーム大会が存在することもまた事実であろう。
今回の件をうけて、プレイヤーやパブリッシャー等を交えてe-sportsの発展のためにJeSU規定は適切であるか、大会運営はJeSU規定に則ってルール設定をすべきかということを見直すきっかけになればよいと思う。
他にもJeSUのお偉いさんの多くがゲーム関連の企業から選出されているという海外ではみないガラパゴス体制であることも問題とされているが、長くなりすぎたので興味のある方は各自で調べてほしい。腐りきった利権団体になる前に、真にe-sportsのための協会を目指して運営されていくことを望む。
[おわりに]
頑張って調べたつもりだけど法律もe-sportsもそこまで詳しくないので間違い等あればTwitterやコメント欄からご指摘いただけるとありがたいです。1次ソースが欲しい方は参考にURLのっけておいたのでそちらからご覧ください。
<参考>
パズドラチャンピオンズカップ TOKYO GAME SHOW 2019 -大会情報-
eスポーツに関する法的課題への取組み状況のご報告(JeSU)