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携帯(用、式)簡易酸素ボンベ

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  • 連獅子
  • 2020/04/04 00:14
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 変な特許出願シリーズ(?)、今回は発明自体が変というより、発明の説明として公開される「明細書」がオカシイという内容的な部分と、提出書類や特許庁に対する手続をしっかりしないといけないよ、という方式的な部分で、稀有な事例になっている出願を紹介します。

まず、法律をみてみよっか

特許法第64条 特許庁長官は、特許出願の日から1年6月を経過したときは、(中略)その特許出願について出願公開をしなければならない。(以下略)

 特許法に定められているとおり、特許出願をすると、その内容が公序良俗等を害するものでない限り、原則として1年半で出願公開されます。つまり特許庁のホームページにある特許情報プラットフォームから誰でも閲覧が可能になります。

特許制度の根本目的

 特許制度というのは、新しい発明をした者は、その技術を世の中に公開することと引き換えに、所定の期間(出願から20年)、その技術を独占的に実施することができるという仕組みです。つまり、20年の間に独占排他的にその技術で稼いでくださいね、20年経ったら誰でも使えるようにしますよ、ということです。技術というのは段々と積み上がって発展していくものですから、いつまでも独占させておくのはよくないという考え方ですね。法律的には「発明の保護と利用を図る」という表現をしています。

そっか。出願さえすれば、公開されるのか

 この特許制度、おかしな目的で使う人も現れます。

 例えば自費出版などをしている、いわゆる「インディーズ作家」にとってみれば、自分の私小説を『特許出願』という体裁で国家機関のデータベースに登録・公開して世界中から閲覧可能にできてしまうわけですね。。。

 そんなわけで、今日は「特許庁も大変だな」という案件を紹介します。もう法律とか行政文書としての方式とか、どうでもいいという感じですが、ちょっと見てみます。

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公開番号:特開2013-180196
公開日:2013.9.12
出願人:織田憲男

 発明の内容(請求項)の記載は以下のとおりです。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
携帯(用、式)簡易酸素ボンベを身に付ける又は常備する事により水難海難事故時、又作業現場、工事現場、そして又災害が予想される場所その他、酸素(空気)を必要としている時間、場所等で本発明品を使用する事により、人の命を救う事を目的としたものである。
この場合の酸素ボンベとは、円筒形に限らず、首輪型、フード帽子型、腹巻型、たすき掛け型、簡易血圧測定器型(腕に巻くもの)、手首型(腕時計を大きくしたようなもの)、大腿装着型、足首装着型、その他実に様々な型、種類があります。
【請求項2】
又、人の命を救う事を目的とした救命具にも色々なものがあり、ライフジャケット型、バレーボール10個型、チューブ入りのタイヤ型、又チューブのみの浮輪型、そして球形ゴムマリ型、ピラミツド型、ドラム缶型、柩型、お椀型、玉子型人間型その他この救命具の型、形状、仕様には実に多くのものがあります。
そして又、本発明(品)の携帯(式、用)簡易酸素ボンベはそのニーズ、需要は広く、深く多様化して居り、数多くあり、酸欠死が予想されるような場所、又、有毒ガス有害ガスを吸い込む危険性がある場所、等々でも、有効であり、使用出来るものである。
携帯簡易酸素ボンベは、急場凌ぎ用としても活用される場合も多い。
携帯簡易酸素ボンベはそれを必要としている人達に酸素(空気)の供給、補給、補充、提供を目的としたものである。そうする事によって結果的に人命を救う事が出来るのである。本発明(品)は避難具、救命具の一種と見做す事が出来、この携帯簡易酸素ボンベは、他の救命具、避難具と併用する事により、より一層の効果を高めるものである。

 ふむふむ、請求項だけみると、発明のカテゴリー(物、方法、物を作るための方法)が、一体どれだかわからないという点はありますが、発明としてそれほどトンデモということもないかな? と思えてしまう内容です。これはあくまで出願当初の請求項ですが。

 この出願のすごいところはその内容(明細書)です。段落【0008】に延々と「発明の詳細な説明」が書かれているのですが、いきなり途中で直筆になったり、公開公報の10ページ目には

ここでは本発明を総括的に述べ、時間も迫って来ている所から、そのあと少し附属的な事を加えて取りあえず、本明細書を終わりとしたい東北大震災と云う大災害(そのスケールも壮大であり)その技術的背景説明も莫大な量(ページ数)に達し残りは追加分として改めて特許庁に提出するものである。特許権利取得と云う目的を意識せず純粋に技術的な記述に専念したい。「人々は津波とどのように向き合うか」と言った題名であり、〔まるでN.H.K.の日曜討論会にでも出て来るようなタイトルですなコレハ〕。先ず初心者の、項から入り、そして本題へと移り、後述版を加えて終りとしたい。本発明の発明の原点とは、本発明に関する初歩的、古典的、原始的その発明とはである。ツナミ対策用の原始的な発明とは一体何か。何であろうか。その答えとは、(以下略。原文コピペ)

といった、好き勝手な論説を延々と書き連ねてあって、読み物としてはくだらなくて暇つぶしにはなるかもしれないといった程度。

 明細書の最後には、締めくくりとして次の記載があります。私もよく読んだなという感じですがコピペしておきます。

斯くて最終的に実験室でのジャッジの判定はドロー(引分け)ではなく、ピラミッド側の手が上げられたのである。併し乍ら優勝カップがピラミッド側に渡されたかどうかは今の所確認されてはいない。パンパカパーンパチパチパチメデタシメデタシと云った調子となって来るのである。
ここまで述べて来ると読者は頭がこんがらがり、分かった、分かった、もう何でも良いから早く結論を出してくれと云う事になったのでこのお話はこれでオシマイ。
最後に現在ではパソコンが普及しているので区別は付かないのではあるが、字のヘタクソな奴程、良い発明をすると云うのは真赤なウソで、実はその真意は今どき手書きで特許出願するのは珍しいの意味。
ツナミとは変幻自在、千変万化に変化するものであり、その事が人々(私達)の恐怖心を駆り立て煽り立てているのです。最新鋭の「科学兵器」球形ゴムマリ救命具を用いて対応対処しなければならない

もうさっぱりワケガワカラナイヨ。

内容はともかく、手続面を確認してみよっか

 上述の通り、明細書の内容はトンデモですが、特許出願としての手続面では「なるほど」というところもありました。特許というのは出願しただけではダメで、出願審査請求(特許法第48条の3)をしなければならないのです。以下、一部抜粋します。

特許法第48条の3 特許出願があつたときは、何人も、その日から三年以内に、特許庁長官にその特許出願について出願審査の請求をすることができる。

2 第四十四条第一項の規定による特許出願の分割に係る新たな特許出願、第四十六条第一項若しくは第二項の規定による出願の変更に係る特許出願又は第四十六条の二第一項の規定による実用新案登録に基づく特許出願については、前項の期間の経過後であつても、その特許出願の分割、出願の変更又は実用新案登録に基づく特許出願の日から三十日以内に限り、出願審査の請求をすることができる。

3 出願審査の請求は、取り下げることができない。

4 第一項の規定により出願審査の請求をすることができる期間内に出願審査の請求がなかつたときは、この特許出願は、取り下げたものとみなす。

5 前項の規定により取り下げられたものとみなされた特許出願の出願人は、第一項に規定する期間内にその特許出願について出願審査の請求をすることができなかつたことについて正当な理由があるときは、経済産業省令で定める期間内に限り、出願審査の請求をすることができる。

(以下略)

 本発明の出願人は、この出願審査請求書に、添付書類として自分の保護決定通知書(生活保護法による保護決定の通知書)と住民基本台帳カードの写しを添付して、減免猶予の適用を受けようとしたようです。生活保護を受けている場合、特許審査請求料(122,000円)は免除となり、特許料の1~3年分も免除となりますから、個人出願人からすると、かなり大きい金額です。

 しかしながら、本発明の出願人は、出願審査請求書に保護決定通知書と住民基本台帳カードの写しを添付しただけで、別途必要な「審査請求料減免申請書」の提出をしなかったため(そして特許庁からの手続補正指令書に応答しなかったため)、手続却下となっています(特許法18条1項)。

 そして、特許庁から指定された期間内に手続補正をしなかったため、出願審査請求書自体が却下され、上記特許法第48条の3第4項に規定するとおり、特許出願の取下擬制(みなし取下げ)という処分になってしまいました。

 これに対して、出願人は6度に渡る行政不服申立を行うのですが、全て棄却決定がされています。

 まあ、もう少し勉強してから出願するか、ケチらずに弁理士に相談しておこうよ、ってところですね。

 なにか発明をして、特許を取りたくなったら、相談してください。私にメッセージを頂いてもOKです(取り次ぎます)。

 

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弁理士資格、1級知的財産管理技能士資格等を持つ知財系ゆとり。現在は某政府機関に所属。FXやポイントサイトなど、国家公務員でもできる副業を模索中。

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