「政府がコスプレの著作権をルール化」というニュースが出て、Twitter界隈では『コスプレが禁止になるのか、許せない!』などという、まったくニュースが読めない人たちが現れておりますが、そんなわけありません(笑)。
現状、まだ何も決まっていないので、今後また新たにブログを書くことになると思いますが、いまのところの法的現況、つまり大前提をメモ的に記しておきます。なお、いくつか写真が貼られているかもしれませんが、特に他意はありません。
著作物というのは、著作権法第2条第1項第1号に規定があり、以下のように規定されています。
一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
文芸、学術、美術、音楽(語呂合わせでブンガクビオン、と覚える)です。これらのものについて「思想、感情」を「創作的に」「表現したもの」というのが、著作物の要件となります。これを外れたものは著作物にはなりません。
だから、人工知能が作曲した楽曲や、象が描いた絵は著作物にはなりません。逆に、著作物自体の巧拙などは要件ではありませんから、小さな子どもが自分の感情をクレヨンでチラシの裏に表現した絵であろうと、爺さんが銭湯でフンフーンと即興で歌った鼻歌も、立派な著作物です。
著作権法というのは、著作権者の利益を不当に害さないように、また著作物の通常の利用が妨げられないように定められたものです。
第一条 この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。
著作物を使用したらなんでもかんでも違法であり、禁止すべきかというと、そんなことはありません。そんなことをしたら、人間の文化的活動が破壊されてしまいます。
著作物を使用することができる場合、というのは多岐にわたりますが、以下のサイトにまとめられていますので、いちどチェックをしていただくといいと思います。
このうち、今回の「コスプレ」が問題となっているのはどこかといえば、著作権法第38条の「営利を目的としない上演等」ですね。38条は以下のような条文です(第1項のみ抜粋)。
第三十八条 公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金(いずれの名義をもつてするかを問わず、著作物の提供又は提示につき受ける対価をいう。以下この条において同じ。)を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる。ただし、当該上演、演奏、上映又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合は、この限りでない。
つまり、営利を目的としなければ、もっと簡単にいえば、コスプレをしてお金をとることをしなければ、なんら問題なく、自由ってことです。
上述した「自由」の範囲は、非営利で、私的に楽しむためにコスプレをするのは法的問題点はないということになるのですが、これがコスプレ写真をSNSでネット上にアップロードして拡散するとなると、法的には「公衆送信権」の侵害ということになります(著作権法第23条)。
(公衆送信権等)
第二十三条 著作者は、その著作物について、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。
2 著作者は、公衆送信されるその著作物を受信装置を用いて公に伝達する権利を専有する。
ただ、知的財産権に関する法律の中でも著作権法は特殊で、著作者が「黙認」している限りは、訴えられることがない、「親告罪」を原則としています(著作権法第123条)。この点は近年、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)整備法として改正されたところですが、ちょっと長いものの改正後の法律を一部引用しておきます。
第百二十三条 第百十九条、第百二十条の二第三号及び第四号、第百二十一条の二並びに前条第一項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
2 前項の規定は、次に掲げる行為の対価として財産上の利益を受ける目的又は有償著作物等の提供若しくは提示により著作権者等の得ることが見込まれる利益を害する目的で、次の各号のいずれかに掲げる行為を行うことにより犯した第百十九条第一項の罪については、適用しない。
一 有償著作物等について、原作のまま複製された複製物を公衆に譲渡し、又は原作のまま公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。次号において同じ。)を行うこと(当該有償著作物等の種類及び用途、当該譲渡の部数、当該譲渡又は公衆送信の態様その他の事情に照らして、当該有償著作物等の提供又は提示により著作権者等の得ることが見込まれる利益が不当に害されることとなる場合に限る。)。
二 有償著作物等について、原作のまま複製された複製物を公衆に譲渡し、又は原作のまま公衆送信を行うために、当該有償著作物等を複製すること(当該有償著作物等の種類及び用途、当該複製の部数及び態様その他の事情に照らして、当該有償著作物等の提供又は提示により著作権者等の得ることが見込まれる利益が不当に害されることとなる場合に限る。)。
上記「告訴がなければ公訴を提起することができない」というのが親告罪というものです。一般に、親告罪というのは、検察官が公訴を起こす時に被害者(被害者側の、法定の範囲の者)の告訴があることを必要とする種類の犯罪をいいます。
著作権法は著作権侵害を親告罪とすることを原則として、上記第2項で例外を置いているということになっています。第2項のキーワードは「原作のまま複製」です。つまり、少年ジャンプを買ってきて、その中の漫画をスキャンして(自炊して)、ネットにアップロードすると、非親告罪として扱われるということです。つまり、著作権者が「やめてくれ」と言わなくても、いきなり検察が訴えを起こすことができる(書類送検して在宅起訴とか)というわけですね。
脱線しますが、同じ知的財産権法でも、特許法では、特許権侵害は「非親告罪」です。いかに特許権が強力な権利かがわかりますね。
法律を改正するとなると、国会を通さないといけませんから、かなりハードルが高いといえます。音楽であれば、JASRACなどの著作権管理団体が使用料を徴収したりしているところですが、コスプレに関してどのように管理するのか、これからパブリックコメントを集めたりして運用を考えていくというところでしょう。正直、SNSに投稿されたコスプレ写真を包括的に管理していくのは無理だと思いますし、二次元を三次元化している時点で原作とは異なるわけですから、なかなか難しいところだとは感じます。
この問題、進展があればまた書きたいと思います。
では、今日はこのへんで。