俺は旅人だ。目的はない。その時の自分の心を楽しむだけだ。
次の街まで数キロほどだろう。しかし人家の気配がない。本当にこっちだろうか。
そんなこと思っていたら、目の前に変なやつが現れた。
三日月の頭をした男だ。蝶ネクタイをしていて、まるでコメディアンだ。俺を笑わせてくれるのか?
【キミ、こっちだよ。キミの望みの場所はこっちだ。】
三日月は俺の望みを知っているらしい。
初対面なのに俺のことを知ったような口ぶりだ。お天道様はお見通しってか?
お前はお月様だろ!
荒野と真っ黒な空と月しかないこの空間に、頭が三日月のやつにそんなことを言われたのに、不思議と疑心は湧かず、男の言うとおり指を指す方向へ行ってみたくなったのだ。
【まあ、月のお導きだもんな。】
異様ではあっても、嫌な感じはしなかった。
この夜闇をくぐっていく。
俺は迷うのか、導かれるのか。 …