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教授と私。

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  • soraho
  • 2019/05/31 12:18
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 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

学歴コンプの「大学生」が、

尊敬する教授に、

出会えた話。

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

私は「テスト」が嫌いだ。
毎回毎回苦しめられる。
高3も、浪人も、大学でも…。
もちろんそれを作る教師さえもあまり得意ではない。
あんな問題作る人は学校でも「エリート街道」まっしぐらで、生徒の気持ちなどつゆ知らない。
ほんとに怖い恐れる存在である。

小学校や中学校ではよくできる部類に属していたと思う。
いい成績を取れば親が喜んでくれる。その笑顔が嬉しかった。
だけれども自然と高校では「自分のためへの勉強」にシフトしていく。
もちろん高校は将来したい仕事につくために必要となってくる重要な指針を決める場にもなる。
「理系」「文系」…高校は大阪ではそこそこ名の通った有名校だったので高校受験が終わった後の気のたるみもあり、自分が本当に将来やりたいことから目を背けて逃げた。
「宇宙教育学」がしたいのに私は「文系」に進学した。

高校では高校でしかできないような宇宙体験プログラムに触れたりと私は何かと文系なりにあがいていた。それもそれで楽しかった。
国際基督教大学で専門家の前に立って話すことは口から心臓が出そうなくらい緊張もした。

もちろん文系も文系で大変だった。
でも理系に対して憧れる、若干くすぶる思いをどこかでごまかしてきた。

そして高校三年生の時、私は某旧帝国大学の教育学部を志望する。
でも努力不足で落ちてしまった。
周りの同級生が大学に受かっていく姿をただただ眺めていた。
もちろんうらやましさの感情はあったし、自分の中で何よりも悔しさが膨らんだ。

だから「浪人」することにした。

浪人は浪人で忙しかった。
1つのテストや1つの模試のウエイトが大きすぎてしんどかった。
慣れない90分授業も最初はしんどかった。
入ったコースも「旧帝国大学を目指そう」みたいなコースだった。
もちろんバイトも出来ないし、親からお金を出してもらい通った。
そんな自分にふがいなさを感じながら満員電車に揺られていた。

でもねこうして順調に進んでいく中で思いもがけないことが突然起きるもの。

手術がいる肺気胸に11月になり、心臓にも1月に異常が見つかった。

手術自体が嫌だったわけではない。
いや怖かったけど。
でも何より、当時の私の心境としては、11月や1月に入院して勉強できない期間が怖かった。
センターの時期が迫っていて怖かった。また周りが合格していくのを眺めていくだけになるのかと思えば焦りしか湧いてこなかった。

ここで私の中で何かが吹っ切れた。
突然(もちろん未だに本人さえ理由はわからない)「理系」になりたくなった。
「どうせ今の時期から文系で勉強しても間に合わない」って思ったからかもしれない。
ただ私は私の将来を考えもう一度再出発したくなった。
だから「理系」として私大入試に挑んだ。

そんな私を拾ってくれたのは某私立女子大の情報科だった。
親の出身ということから、親のすすめもあり受けてみた。

はっきり言って旧帝大を目指していた私からしたら全然物足りない。
学歴にこだわってるわけではないし、"偏差値"とかいうよくわからないものさしで測りたいとも思わない。
でも私が目指している「理想像」でないことは確かだった。

そのせいもあり、理転に成功してもまだまだお腹いっぱいにならない。
そして今の条件で私の将来の夢が叶うなんてこれっぽっち思えない。
今実際くすぶってる思いの火種でもある。

もちろん高校での知り合いや浪人時代の知り合いが優秀だからという要因もある。
どこか見下されたような態度を取られる時もしばしばある。
私を嘲笑うやつに後々復讐したい気持ちも湧いてくる。
(もちろん物理的にではなく、復讐心を私の向上心のバネに変えてで、ある。)
その度、見えないとこで泣いてしまう。悔しさとふがいなさで。
そして強くなろうと下唇をかみしめる。
偏差値だけが賢さではないと強がっても所詮、出来ない奴の言い訳にしか過ぎない。


ただのサラリーマン家庭で私立の高校、塾代、予備校代、私立女子大となればきつい。
毎日家計簿とにらめっこしてる母親に申し訳ない。ほんとに申し訳ない。


そんな私は心の底から自分は「学歴コンプ」だと思う。


悔しくて私は2浪目を大学で始めることにした。
自分の夢のため、成功のために。

ここで改めて予備校の良さに気付かされたりするものだ。
大学では山のような課題が出される。
元々文系だった私はPC操作に慣れてもいなく、デスクトップのPCの電源の付け方さえわからなった。
USBの使い方、フォルダの作り方…みんなが普通にこなすことが私にはできなかった。
毎日テキストとにらめっこした。
Wordで書くレポートやExcel関数、プログラミング…慣れないことをこなす事は難しい。
時間もそこで失われる。
本当にしたいセンターや2次の勉強時間はみるみる間に小論文に消えていく。

「お願いだから受験勉強させてくれ」

何度も思った。


しかしながら仮面浪人だけが道ではないと考えた。授業を受けさせて頂いているN教授が授業内で「大学院」についてお話されていたことから「大学院」への進学を考えてみた。

授業後、N教授の元へ行き、色んなことを伺った。立命館の大学院はいいよ、とか。
そのお話の中で私が一番心に残ったのは「大学院大学」という選択肢だった。

大学院大学は国立の大学院しかない学校である。関西では奈良にあり、グローバルな人材と勉強出来ることもありかなり人気も高い。

N教授はこう仰った。
「君の担任のA教授は大学院大学だよ。」と。
「あの先生なら大学院大学の実情をよく知ってらっしゃるから相談に行ってもいいかもね。」

私の通う大学では珍しく"クラス制""担任制度"がある。私の担任はコンピュータサイエンスを専門にしていらっしゃる方で、私も授業を受けている。

私の担任は厳しい。
必修なのに40%の生徒が単位を落としたらしい。
確かにコンピュータサイエンスという莫大な範囲を90分にまとめて14講、アルゴリズム論やプログラミング、データベースなどを深く突き詰めるもので、私自身単位の危うさを感じる授業である。

そんな鬼畜な教授はきっと生徒の気持ちなんてわからないエリート族で、生徒の"わからない"という気持ちがわからない人なんだろうと思っていた。

だから怖い。

学歴コンプにとって高学歴と話すのは自分自身をじりじりと刃物で刺しているのと同じ感覚になる。あまり話したくない。
しかも今までの自分の経歴をさらけ出すことになるのも怖かった。

しかしながらそこで話せなければ私は大学院大学の実情を知る事ができない。
心がぐらつく。しかしA教授にお話を伺わねば。
お話を伺う、と言ってもゼミ室に乗り込んで…までは気が引ける。だから授業後のA教授を捕まえることにした。

「A先生、」
授業後A教授を引き止めた。
「私、大学院入試を考えているんです。
私は教授が大学院大学の出身とN先生から伺いました。私は今、大学院大学への進学を考えています。」
A教授は一瞬きょとんとした顔をしたが、
「えぇ、そういった話ならいくらでもしてあげますよ。」と快諾して頂けた。

「私はやりたい事が明確でそれに向かっているつもりなんですが、実力が足りません。
高校時代文系で、大学受験に失敗し、旧帝国大学を目指すコースに浪人で入り、自分もその中の1人になるものだと思っていました。なのにふとした転機で理系に進学し今に至ります。
とりあえず何より学歴にコンプレックスしかありません。
そのために大学院大学に進学したいと言っている訳ではないですが、私は今の自分に明確に自信を持てません。」

A教授はうんうんと話を聞いて下さり、口を開いた

「僕もですよ。」

私は驚いた。エリート族の先生からの同意の言葉。
正直信じられなかった。

「僕も1浪しました。
しかも浪人時代は国立大学を目指すコースで過ごし、自分もその中の1人になる事に疑いはなかった。
けど、全く希望ではない私立の大学に行きました。日本大学です。悪くはない。けれど旧帝国大学からしたらかなり希望外。しかも僕、その段階では"哲学"を専攻していました。文系です。」

自分とよく似た経歴を持つ教授。
私は話に釘付けになった。
教授は話を続けた。

「実際その中では成績優秀でした。
でも君と一緒のくすぶる思いの種もあり、
そして僕は仮面浪人的なこともしていたし、
編入の枠を狙っていた。」

先生は一呼吸あけて、
「あ、だからね、君みたいな生徒がいても僕はいいと思いますよ。」と付け加え話を続ける。

「そして僕は大学を出て、就職し、働いた。

だけどね、哲学に興味はあったけど、本当に自分がやりたかった航空宇宙工学からは離れてるし、そんな自分が不甲斐なかった。ゼミ室の名前が恥ずかしくて言えなかった。

だから僕は大学院大学に入学したんですよ。

そこで僕は馬車馬のように勉強した。
勉強したくてしたくてたまらなくなったんですよ。
もちろんそこでも悔しい思いをたくさんしました。
"歳のいった助手と若い准教授"なら若い准教授が優遇されるんですよ。負けないくらい実歴があっても。

あ、あとおもしろい話。
僕はね、受験生の時 埼玉大学に落ちました。
けれどね、僕はその数十年後、埼玉大学の教授になった訳だ。」

先生は笑いながら話した。

「だからね、何が言いたいかっていうと、
"今自分が教授として、ここ(=教壇)に立てている理由はね、こんな僕の実歴がおもしろいって思われるから"なんですよ。
いや、決して僕みたいな人生を勧めはしない。
確かに何もなく、ストレートでいくことが一番いいことですから。

けれどいつかそんな自分に自信を持てる日がきます。」

私はその話に感動した。
震えていたかもしれない。

そんな私を見た教授は続けた。

「君はね、周りに馬鹿にされるかもしれない。
君の努力を笑う人が沢山いるかもしれない。
けれど君はね、君らしく努力すればいいんですよ。」

時間が来て教授との話は終わった。
濃い10分間だった。

帰りの電車、ふと最後に言われた言葉を思い出して泣いた。
誰かに言われたかった言葉を教授は私にかけて下さった、その安心感。

そして同じ苦しみに囚われた教授からの優しい同情ではない共感。
寝ても覚めても毎日苦しみの種になる"学歴コンプ"の痛さを解った人からの言葉。

赤の他人から見てみたら、ただの学歴コンプの2浪が教授に話を伺って泣いただけにしか見えないかもしれない。
それでもいい。
それでもいいから私は文章にこのことを書き残したかった。

私の大学院試は成功するかわからない。
A教授みたいな人生の送り方も出来るかどうかわからない。

未来が見えない不安しかないし、毎日毎日モヤモヤしている。それは苦しいし周りが見えず暴走することもある。


でも私はこの大学に入れたことに誇りに思う。


このような素敵な教授に恵まれたこと。
支えてくれる仲間に恵まれたこと。

私の試験結果がどうであれ、私はこの大学に入学出来て良かった。
学歴コンプの負け惜しみとかではなく、普通に思える。

だからこそ私は夏休みに行くべき場所がある。
入試説明会。
きっと新しい経験がそこでも加わるはずだ。
これから先の不安、そこに並行してレールを走らせる"期待"という文字。

私は必ず私としていつか自分の学歴に誇りを持ちたい。

A教授のように。


そして私は今"教職"を取っている。
いつか教える立場に立てた時、A教授のように自信を持って教壇に立てるように。

 

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