ここ最近、というか結構断続的に何度も、起業家やらフリーランサーとして働いてる知人友人諸々の方がメンタルをやられて倒れてしまったという話を目にする。起業しようなどと考える方はほぼ例外なくハードワーカーであり、向上心が強く責任感も強い方が多いように思う。そしてとことんまで踏ん張った結果、限界を超えてしまうという事態がままある。
センシティブな話題なのであまり語られることが無いが、このあたりの“技術”について語る価値はあるだろうと考えこの記事を書く。私は現在、世の中の99%の人が鬱で倒れても自分は平気だと確信しているが、それはメンタル強者のマウントというよりも、むしろ自分が10代〜20代前半の若い頃に誰よりも苦悩し必要に迫られた結果として身につけた”技術”に依るところが大きい(ちなみにその苦悩の話は今となってはどうでもいいのでまったく暗い話ではない)。
この記事ではその"技術"の中から、予防に効く可視化・定量化について書く。
可視化・定量化を含む現状把握の重要性はロジカルシンキングのフレームワークから各種ビジネスの定石にいたるまで、あらゆるところで語られているのでその有用性については是非も無いだろう。"今自分がどこにいて、どういう状態なのか?"を知らなければ"次にどうアクションすべきか?"の意思決定における妥当性が下がる。
当たり前だがメンタルは重要だ。メンタルが不調なら仕事のアウトプットも不調となり、当然の帰結として事業も不調になりがちだ。しかも事業の不調がメンタルをより不調にする負のスパイラルを構成する。特に少人数が当たり前のスタートアップにおいて主要メンバーのメンタルの不調は事業の命運を左右する。あまり重視されることは無いが、事業戦略においてメンタルはファイナンスと同列かそれ以上に重要視すべき要素だ。
可視化は重要。メンタルも重要。ならばメンタルの状態を可視化しない理由があるだろうか?
断言するが起業家は皆、メンタルを可視化すべきだ。極めてコスパが良いからだ。
メンタルの可視化に有用なのは心理学だ。勘違いされがちだが、心理学は統計学が密接に関わる数理的な側面を持つ。つまり心理学に基づいて適切に作成されたスクリーニング検査の結果には統計学的に裏付けられた根拠が期待できる。そして、そういった検査はオンラインで無料で5分〜10分で実施可能なものがいくつもあり、かつ極めて有用だ。
1例として、BDI(Beck Depression Inventory)というスクリーニング検査を紹介する。BDIは認知行動療法の提唱者であるアメリカの精神科医アーロン・T・ベック博士が開発した抑うつ度の自己評価表の一つであり、いま自分はどのくらい鬱なの? という問いに明確な数値で応えてくれる頼れる奴だ。Webで簡単にチェックできるページなどもある。もう何年もメンタルの状態を定量化するために利用しているが、調子が悪いときは明らかに数字が高くなる。というよりも、BDIの結果が高かったら「ああ、そういえば最近調子悪かったな。だからか」と自分のメンタルの状態に気付き、何よりも休暇を優先するなどの打ち手がとれる。逆に言えば、人はなかなか自分のメンタルの状態に気づけない。そして重症になるまで改善のためのアクションを打てないと、膨大な時間を低いQOLとともに浪費することとなるので、早め早めの対処は極めて重要だ。
BDIはうつ病のスクリーニングのために作られたものだが、もっと手前の「オーバーワークによるパフォーマンスの低下」程度でもきっちり数値として反応が表れるので有用だ。私は明らかに調子が良いとき(ほぼいつもそうだが)でも、最低週に一度はBDIを実施してメンタルの状態を可視化している。体重計に乗ることと同じで習慣とすることが重要だ。
弊社では私の提案で役員は週一のミーティング時に必ずチェックすることとしている。5分くらいだ。そのわずかな時間をかける価値は充分にある。
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